1-1.『盗賊団の討伐任務で“眠り草”の罠にかかったら』
――全員、止まれ。
副団長。
正面の洞窟が――報告のあった、盗賊団の隠れ家で間違いありませんね?
あの洞窟には……おそらく、複数の出入口があるようです。
ええ。ほんのりと――風の流れを感じます。
ただ、おそらく……他の出口は、部外者には分からないように、隠されているでしょう。
知らない者には、正面の入り口一つのみに見える。
しかし、出入口が複数あるということは――
正面入り口で、罠を仕掛けて敵を迎え撃ちつつ……危なくなれば、撤退も容易ということです。
盗賊ということで、少し侮っていましたが……
少し手こずりそうな状況です。
……そうですね。
訓練を受けた私たちと、戦闘技術は比べ物にならないでしょうが――
迂闊に手を出せば、こちらに被害が出てしまうでしょう。
何とかして、外に誘い出したいものですが。
……はい。なんでしょうか。副団長。
それは?
……眠り草?
なるほど。この辺りは眠り草の群生地……
つまり、眠り草を炊いて……その煙を、吸わせるのですね?
悪くない手です。
風向き次第では、敵のほとんどを眠らせることができるでしょう。
……いえ。
騎士同士の戦いならともかく……
盗賊相手であれば、搦め手を使ったところで、誹りを受けるいわれはありません。
今は、こちらの犠牲を出さないことを、第一目標とすべきです。
では、早速取り掛かりましょう。
どれくらいで準備ができますか?
分かりました。
では、第一、第二小隊。周辺の眠り草を、あるだけ摘んでください。
第三小隊は、正面の入り口近くに、火を起こす準備を。
第四小隊は周囲の警戒。もし洞窟の中に動きがあれば、すぐ報告をお願いします。
以上。質問は?
よし。かかれ。
…………。
いえ。副団長。私も洞窟の警戒に当たります。
何か……よくない予感がして。
ああ。そういう意味ではありませんよ。
あなたの策は良い。上手くいけば、こちらの犠牲はゼロで済みます。
しかし……
何かが、引っかかるのです。
こういう予感は……よく当たります。
…………。
副団長。
先ほど見せてくれた眠り草は……どこにありましたか?
……そこですか?
…………。
……摘まれた跡があります。
はい。見てください。
隣の茎が――乱暴に千切られています。
つまり――
総員! 作業中止!
……くっ!
今すぐ戦闘態勢に移れ!
――第三小隊! どうした!?
く……っ!
皆、布で口と鼻を覆え!
眠り草を炊かれている!
敵も同じことを考えていたというわけだ……!
う……っ!
正面! 洞窟に向けて、防御態勢を組め!
盾、構え!
いや……!
正面ではない! 囲まれている……!
動きが速い!
落ち着け! いったん、態勢を立て直すんだ!
我らは騎士だ!
盗賊などに、決して負けはしない……!