2-1.『若い女性が行方不明になる宿屋の潜入調査で、媚薬を注入されたら』
――すみません。
今晩、一部屋借りることはできますか?
はい。この辺りを旅していたのですが、道に迷ってしまい……
こちらの宿を偶然見つけて、伺いました。
どんな部屋でも構いませんので……
……ありがとうございます!
はい。これが鍵ですね。
ありがとうございます……
……っ。
あ。少し、鍵がチクっとしたもので。
すみません、お借りします。
本当に助かりました。
さぁ。行きましょう、リーゼ。
* * *
……ふぅ。
さて。リーゼ小隊長。
今一度、この潜入調査の確認をしましょう。
騎士団に来た、行方不明報告の中で……
行き先として共通だったのが、この宿屋でした。
行方不明者は、ほとんど若い女性ばかりでした。
おそらく、宿に泊まった女性を、何らかの手段で拘束し……
娼婦として売り飛ばしているのでしょう。
リーゼは気づきましたか?
あの宿屋の店主。
……いえ。太っていることではなく。
彼の目は……私たちを〝商品〟として値踏みしていました。
それに、この鍵にこのドア……。その気になれば、簡単に破れるような仕様です。
おそらく、私たちが寝静まったころに、部屋に踏み込んでくることでしょう。
さらに、興味深いのは……
この辺りの土地は、マンドラゴラが多く出没する地域だということです。
マンドラゴラは、その死体を煎じると、とある強力な薬になります。
それは……〝媚薬〟です。
ひとたび飲まされたら……
……その。〝行為〟をすること以外、何も考えられなくなるほど……強烈なのだとか。
抵抗する力すら奪われる、という話を聞きます。
おそらく、それで女性を落としているのでしょう。
親切を装って、食事か飲み物を持ってきて……
それに混ぜているかもしれません。
しばらくすれば、コンタクトを取ってくるかと思います。警戒は怠らずに。
はい?
……ふふ。そうですね。
もちろん、私は部下たちを信頼しています。
ですが……悪事の証拠を掴むために、団から女性二人を潜入させる……というのは、さすがに心配でした。
こういうとき、自ら矢面に立ってこそ、誉れある騎士というものでしょう。
リーゼ。
この作戦の責任は私にあります。
何かあったら、私を置いて逃げること。いいですね?
さて……
……早速、来ましたか。
私が対応します。
リーゼは、ベッドの影で剣を構えておいてください。
……どなたでしょうか?
ああ。店主ですか。
何か御用ですか?
……食事を?
ああ……親切にありがとうございます。
今、ドアを開けます。
お待たせしました。
…………。
……〝食事〟と仰いましたが……
どちらにあるのですか?
それに……
後ろの方々は……一体……?
う――
体が……急に、痺れ……?
まさか……
もう、媚薬を……?
でも……どうやって……
何も、口にしていない、のに……
ま……まさか……
この、部屋の鍵……?
あのとき、チクっとしたのは……
う……。
あ……♪
ふぁ、ぁぁぁぁ……♪