Track 3

2-1.『若い女性が行方不明になる宿屋の潜入調査で、媚薬を注入されたら』

 ――すみません。  今晩、一部屋借りることはできますか?  はい。この辺りを旅していたのですが、道に迷ってしまい……  こちらの宿を偶然見つけて、伺いました。  どんな部屋でも構いませんので……  ……ありがとうございます!  はい。これが鍵ですね。  ありがとうございます……  ……っ。  あ。少し、鍵がチクっとしたもので。  すみません、お借りします。  本当に助かりました。  さぁ。行きましょう、リーゼ。 * * *  ……ふぅ。  さて。リーゼ小隊長。  今一度、この潜入調査の確認をしましょう。  騎士団に来た、行方不明報告の中で……  行き先として共通だったのが、この宿屋でした。  行方不明者は、ほとんど若い女性ばかりでした。  おそらく、宿に泊まった女性を、何らかの手段で拘束し……  娼婦として売り飛ばしているのでしょう。  リーゼは気づきましたか?  あの宿屋の店主。  ……いえ。太っていることではなく。  彼の目は……私たちを〝商品〟として値踏みしていました。  それに、この鍵にこのドア……。その気になれば、簡単に破れるような仕様です。  おそらく、私たちが寝静まったころに、部屋に踏み込んでくることでしょう。  さらに、興味深いのは……  この辺りの土地は、マンドラゴラが多く出没する地域だということです。  マンドラゴラは、その死体を煎じると、とある強力な薬になります。  それは……〝媚薬〟です。  ひとたび飲まされたら……  ……その。〝行為〟をすること以外、何も考えられなくなるほど……強烈なのだとか。  抵抗する力すら奪われる、という話を聞きます。  おそらく、それで女性を落としているのでしょう。  親切を装って、食事か飲み物を持ってきて……  それに混ぜているかもしれません。  しばらくすれば、コンタクトを取ってくるかと思います。警戒は怠らずに。  はい?  ……ふふ。そうですね。  もちろん、私は部下たちを信頼しています。  ですが……悪事の証拠を掴むために、団から女性二人を潜入させる……というのは、さすがに心配でした。  こういうとき、自ら矢面に立ってこそ、誉れある騎士というものでしょう。  リーゼ。  この作戦の責任は私にあります。  何かあったら、私を置いて逃げること。いいですね?  さて……  ……早速、来ましたか。  私が対応します。  リーゼは、ベッドの影で剣を構えておいてください。  ……どなたでしょうか?  ああ。店主ですか。  何か御用ですか?  ……食事を?  ああ……親切にありがとうございます。  今、ドアを開けます。  お待たせしました。  …………。  ……〝食事〟と仰いましたが……  どちらにあるのですか?  それに……  後ろの方々は……一体……?  う――  体が……急に、痺れ……?  まさか……  もう、媚薬を……?  でも……どうやって……  何も、口にしていない、のに……  ま……まさか……  この、部屋の鍵……?  あのとき、チクっとしたのは……  う……。  あ……♪  ふぁ、ぁぁぁぁ……♪