■トラック4「囁き――二人でお話しようじゃないか」(耳元でお話)
//寂し気に、
//ボイス位置:1
【あやめ】
「ねぇ、眷属くん。突然だけど、昔話に付き合ってくれないかな?」
【あやめ】
「いやなに、ふと喋りたくなってね。ほら、窓の向こうを見てごらん。月がとても綺麗だろう?」
【あやめ】
「こういう空気が冷たい夜は、お酒でも飲みながら話をしたいと思ってね」
【あやめ】
「どうだい? 主人のお願いを、聞き入れてはくれないかな?」
//優しい声で、
【あやめ】
「……ふふ、ありがとう。じゃあ、用意をするから待っていてくれ」
//SE:歩いていく音
//SE:扉を開ける音
//SE:戻ってくる音
//ボイス位置:3
【あやめ】
「お待たせ。お隣、失礼するね」
【あやめ】
「今日は赤ワインにしたよ。と言っても、どこにでも売っているようなテーブルワインだけどね」
【あやめ】
「じゃあ、開けようか。最近のワインの栓はスクリューキャップだから、コルクと違って開けやすくていいね」
【あやめ】
「もっとも、コルクが綺麗に抜けたときのキュポンって音も好きなんだけど」
//SE:スクリューキャップを開ける音
【あやめ】
「ほら、グラスを持ちたまえ。今日は僕が誘ったのだから、僕から酌をさせてくれ」
//SE:グラスにワインが注がれる音
【あやめ】
「お? 今度は眷属くんがお酌してくれるのかい? ありがとう、それじゃあ遠慮なく」
//SE:グラスにワインが注がれる音
【あやめ】
「よし。では、乾杯」
//SE:乾杯音
【あやめ】
「ふぅ……美味い。決して高いボトルではないけれど、なかなかいけるだろ?」
【あやめ】
「……ふふ、眷属くんも美味しそうに飲んでいるね。気に入ってくれたみたいで何よりだ」
【あやめ】
「じゃあそろそろ……本題の昔話をしようか」
//以下、昔話パートは全体的に落ち着いた感じで
//5秒ほど間を置いて開始
//少しかしこまった感じで、
【あやめ】
「昔々、一人の吸血鬼の女の子がいました」
【あやめ】
「物心ついたときから、女の子は独りぼっちでしたが……特に辛いと思ったことはなく、毎日それなりに楽しく暮らしていました」
【あやめ】
「ある冬の夜、女の子は山の中を歩いていました。たまには人気(ひとけ)のないところを散歩するのもいいかと思い、気まぐれで山にやってきたのです」
//SE:少し強い風の音
【あやめ】
「人の手の入っていない山の中は真っ暗で、明かり一つ見えません。木々は鬱蒼(うっそう)と生い茂り、冬の冷たい風に吹かれ、木の葉がカサカサと音を立てています」
//SE:木の葉のカサカサ音
【あやめ】
「時々、強い風がビューッと通り過ぎ、そのたびに辺りはシーンと静まり返ります。そのままじっとしていると、フクロウの鳴く声が辺りにこだまします」
//SE:遠くの方からフクロウの鳴き声
【あやめ】
「何時間ほど歩いたでしょうか……そろそろ帰ろうかと思い、女の子は元来た道を戻り始めました。しかし、なかなか森を抜けることができません」
【あやめ】
「そのうちひらけた場所に出るだろう。そう思ってしばらく歩いていると、遠くからうっすらと甘い匂いが漂ってきます」
【あやめ】
「この匂いはなんだろう? 女の子は鼻をくんくんさせながら、匂いのする方へと歩いていきました」
【あやめ】
「さらに歩くと、向こうがぼんやりと明るくなってきました。女の子の足取りは次第に早くなり、甘い匂いもだんだん強くなっていきました」
【あやめ】
「そうして辛抱強く歩いているうちに、女の子はとうとう、鬱蒼とした森を抜けました」
//明るくも落ち着いた感じで、
【あやめ】
「森を抜けると、そこには花畑が広がっていました。雪が降りそうな寒い日なのに、色とりどりの花が咲き誇り、甘い匂いを漂わせていたのです」
【あやめ】
「ふと女の子が空を見上げると、冬の澄み切った空に、大きなお月様が浮かんでいました」
//楽し気に、
【あやめ】
「お月様に照らされて、花畑は美しく光り輝いていました。お月様の光が、薄い花びらの一枚一枚に降り注ぎ、まるで花びら自体がピカピカと光っているようでした」
【あやめ】
「なんて綺麗なんだろう。女の子はそこに座り、しばらくその景色を眺めていました」
//悲しそうに、
【あやめ】
「ですが、どうしてでしょう。その美しい景色を見ているうちに、女の子はなぜだか、とても寂しいと感じました」
【あやめ】
「自分はこのままずっと独りぼっちなのだろうか。そんな考えが頭をよぎると、女の子はとても悲しくなり、生まれて初めて、大きな声を上げて泣きました」
【あやめ】
「そしてひとしきり泣いたあと、泣き疲れてしまった女の子は、そのまま眠りに落ちました」
【あやめ】
「女の子は、夢を見ました。ずっと独りぼっちだった女の子の元に、ある日突然、眷属ができる夢です」
【あやめ】
「一緒に他愛もない話をしたり、食事をしたり、散歩をしたりと、何気ない日常の出来事の一つ一つが、とても楽しいと思える夢でした」
//淡々とした感じで
【あやめ】
「しばらくして女の子が目を覚ますと、相変わらず大きなお月様が空に浮かんでいましたが、美しい花畑は消え、枯れ草に覆われた地面が広がっていました」
【あやめ】
「沢山泣いたからでしょうか、不思議と女の子の心は軽くなっていました。そして夢での出来事を思い返すたびに、とても暖かい気持ちになりました」
【あやめ】
「それから長い年月が経って……女の子はある冬の夜、ひとりの若い男を見つけました。彼は人気(ひとけ)のない道路で、血を流して倒れていたのです」
【あやめ】
「不幸な事故にあったのでしょう。男は既に事切れていました。顔を覗こうとふと目をやると、女の子はとても驚きました」
【あやめ】
「男は昔見た夢に出てきた、あの眷属にそっくりだったのです」
【あやめ】
「女の子は、男に自分の力を分け与え……暗い夜の闇へと消えていきました。その様子を見ていたのは、澄み切った空に浮かぶ、大きなお月様だけでした」
【あやめ】
「そして、吸血鬼の女の子と眷属になった男は、それからいつまでも仲睦まじく、幸せに暮らしましたとさ、おしまい」
//昔話パートここまで、ここからいつもの口調に
//5秒ほど間を置いて
【あやめ】
「……ん? ふふ……お酒が回って、眠っちゃったか」
【あやめ】
「(首筋にキス音)」
//愛おしそうに、
【あやめ】
「おやすみ、眷属くん」