■トラック7「散歩――夜のピクニック」(散歩)
//SE:扉が開く
//SE:あやめが歩いてきて、
//ボイス位置:9
【あやめ】
「どうだい眷属くん? 君が僕の眷属になってしばらく経ったけれど、何か不自由はないかな?」
//SE:コーヒーカップを机に置く
//ボイス位置:1
【あやめ】
「はい、コーヒー。インスタントで申し訳ない。自分で豆を挽くのも好きなんだけれど、飲まない日が続いてるうちに湿気って(しけって)しまったんだ」
【あやめ】
「まあ悪くない味だよ。体もあったまるし……ん、いい具合だ」
//SE:あやめがコーヒーを啜る
【あやめ】
「そうそう、不自由と言えば……君は眷属になってからずっと、この部屋から出ていないよね」
【あやめ】
「まだ万全ではないという理由で、君を外に出していなかったわけだけど……そろそろ君も、眷属として一人前になりつつある」
//芝居がかった感じで、
【あやめ】
「なので、今夜は夜桜を見物しに、散歩にでも出かけようじゃないか」
【あやめ】
「うんうん、そうと決まれば善は急げだ。夜が深いうちに行くとしよう」
//SE:歩く音
//SE:扉を開けて
//ボイス位置:3
【あやめ】
「(はーっと息を吐いて)……うーん、寒いね。息が白くなっちゃうや」
//SE:以下、外を歩きながら
【あやめ】
「君に出会ったのは、年が明ける前だったね。もう桜の季節になったとは……時が経つのは早いものだ」
//無邪気な感じで、
【あやめ】
「おっと、水溜まりだ、えい!」
//SE:水溜まりに飛び込んで、水が撥ねる
//おどけたような感じで、
【あやめ】
「あはは、ごめんごめん! 年甲斐もないことをしてしまった。初めて君と外を歩いているからかな? つい調子に乗っちゃっているのかもしれないね」
//20秒ほど足音オンリーで、そこからあやめのセリフIN
【あやめ】
「ふふ……今の僕たち、周りからどういう目で見られているのかな?」
【あやめ】
「年の離れた兄弟か、家族か……それとも恋人? 夫婦? ふふふ……」
【あやめ】
「まぁ、実際は御主人様とその眷属なわけだけれども」
【あやめ】
「周りにいる人々も、本当はどんな関係なのか、僕たちには知るよしもない」
【あやめ】
「いますれ違っている人の中にも、僕らと同じ関係の人がいるかもしれないね。なんなら、僕らを狙う吸血鬼ハンターがいたっておかしくない」
【あやめ】
「まぁ、お仲間とその敵は、だいたい匂いで分かるものだけどね。君もそのうち鼻がきくようになるだろう。楽しみだね、ふふっ」
//SE:虫と木々の音が聞こえ始める
//ボイス位置:1
【あやめ】
「お……ようやく着いたね、公園に。夜桜がライトアップされていて、風情があるな」
【あやめ】
「向こうのほうでは酒盛りもしているようだ。あれも春らしい光景というやつかな。ふふっ」
//SE:あやめがベンチに座る
//ボイス位置:16
【あやめ】
「ほら、こっち。僕の隣に座って」
//SE:自分も腰掛ける
//30秒ほど虫と木々オンリーで、
//ボイス位置:3
【あやめ】
「……桜というものは、どうしてこんなに人の心を揺さぶるんだろうね」
【あやめ】
「言ってしまえば、桜もそこらの雑草と同じ、植物の一種でしかない。それでも、咲いたときにはどうしようもなく嬉しい気持ちになる」
【あやめ】
「考えてみれば、雑草にだってみんな名前がある。それぞれ一生懸命生きている。それでも、桜がひとたび咲き誇れば、誰もがその美しさに魅せられて、周りには目もくれなくなる……本当に不思議なものだ」
//SE:水筒を空けて、コーヒーを飲む
【あやめ】
「(宙に息を吐くように)はぁ……」
【あやめ】
「ねぇ。ちょっと感傷的な話をしていいかな。なんてことない独り言だよ」
【あやめ】
「こんなこと、生まれてはじめてなんだけれど……君を見ていると、胸が痛くなるんだ」
【あやめ】
「今まで一度もこんなことはなかった。街を歩くどんな人間も、僕の目に留まりはしなかった。誰ひとり僕の心を揺さぶることはなかった。だけど……」
【あやめ】
「ようやく見つけたんだ。ずっと共にいたいと思える、たったひとりの存在を」
【あやめ】
「僕は……君と離れたくないと思ってしまっているんだ」
【あやめ】
「桜の花は時が経てば散ってしまう。どんなに綺麗でも、鮮やかでも……等しく平等に、僕らの前から姿を消す」
【あやめ】
「……僕は君に、そうなってほしくない。ずっと僕の隣で、咲き誇ったままでいてほしいんだ」
//5秒ほど間を置いて
【あやめ】
「君を眷属にしたのは、その場の成り行きで……ちゃんとした心構えがあったわけじゃない。かつて夢に見た風景が現実になって、心が高ぶってしまった。ただそれだけの理由でしかない」
【あやめ】
「それでも思うんだ。あの日、君を眷属にしてよかったと。君があの日のことをどう思っているかはわからない。正直言ってとても不安だ。だけど」
//真剣に、
【あやめ】
「君が許してくれるなら……僕は君に、ずっと一緒にいてほしい」
【あやめ】
「……うん。答えは言わなくていいよ。そろそろ帰ることにしよう」
//感慨深そうに、
【あやめ】
「桜が、綺麗だな……。行こうか」
//SE:大きな風が吹いて木々が揺れる