Track 3

トラック3:『公園、駄弁り、駄菓子』

;ボイス位置:7 同じベンチの隣に座っている 【真夜】 「たかりって、正面からやっても案外上手くいくもんすね」 【真夜】 「それともお兄さんがとてつもないお人よしなんすか?」 【真夜】 「まあ人が良さそうだから声をかけたんすけどね」 【真夜】 「今日会ったばかりなのに分かるのか、なんて思ってないすか?」 【真夜】 「分かりますよ。あなただって、夜中に外を出歩くのは初めてじゃあないでしょう?」 【真夜】 「そういうの、見てたらすぐにわかるんです。そういう事でございますよ」 【真夜】 「このまま駄弁るだけの時間を続けるのも悪くないっすけど、ぬるいエナドリは好みじゃないんで、先に頂いちゃいますねー」 ;SE:エナドリをビニール袋から出す音 ;SE:エナドリを開栓する音 【真夜】 「ごくっ……ごくっ……ごくっ」 【真夜】 「うめ~~っ。エナドリを飲んでいる時が、生きている事を一番実感する」 【真夜】 「こうやって、夜風に当たりながら、月を見上げてエナドリを傾けて……」 【真夜】 「深々とした夜の闇に、心を休める」 【真夜】 「昼はあまりにも騒がしくて、ボクらには眩しすぎる」 【真夜】 「だからボクたちは、真夜中に生きるしかない……」 【真夜】 「お兄さんもそうは思いませんか?」 【真夜】 「まあ、どの道。昼間にまともな人間のフリをしなければ、ボクたちは生きていけないんですけどね」 ;ボイス位置:7 囁き 【真夜】 「お兄さんも、そうでしょう?」 ;SE:10円の駄菓子を取り出す音 ;ボイス位置:7 普段の感じで 【真夜】 「この納豆味の駄菓子だってそう。みんなといる時は、定番のめんたい味やコーンポタージュ味を選ばざるを得ない」 ;SE:サクサクとふた口、駄菓子を食べる音 【真夜】 「食感は良い感じに粘り気があって、味は醤油とからしの混ざったような臨場感があって、こんなに美味しいのに」 【真夜】 「でも……人は、味よりも見た目や匂いを選ぶんすよね」 【真夜】 「そして同じ情報を食べて、同じ情報を共有する」 【真夜】 「作品もそう。みんなが大好きな作品をみんなが愛する」 【真夜】 「たとえ自分の口に合わなかったとしても、それを口には出さない」 【真夜】 「それが"まとも"な人間だから」 【真夜】 「だから深夜だけは、暗闇で自分の中の獣を自由に散歩させている、という訳です」 【真夜】 「まあ、あまりにも倫理から外れすぎると、檻に入れられてしまいますけどね」 【真夜】 「んくっ……授かった翼はほどほどに伸ばしましょう」 【真夜】 「今飲んでいるのは違うエナドリですが。ふふっ」 ;SE:10円の駄菓子を食べる音を流しながら(台詞の末などにサクッ) 【真夜】 「まあでも、結局めんたい味も普通に美味いんすけどねー」 【真夜】 「ささやかな辛さとしょっぱさと甘さが、上手いこと同居している良い例だと思うんすよ」 【真夜】 「一言で言えば、満足度が半端ない」 【真夜】 「10円でこの満足度は奇跡的じゃないすか?」 【真夜】 「遠足なら30本持っていけますよ? やばくない?」 【真夜】 「まあ、ボクが実際に持って行ったのは、今はもう売ってないヒモ状のグミでしたけどね」 【真夜】 「あれ結構好きで普通に買ってたんすけどねぇ……」 【真夜】 「諸行無常、盛者必衰……」 【真夜】 「(一分ほどただ食べたり、袋の音などを立てる時間)」 【真夜】 「そういえば、この美味しい棒の駄菓子、どの味が一番人気かご存知すか?」 【真夜】 「企業の公式サイトでは、他の駄菓子も含めたランキングで1位がコーンポタージュ味なんすよね」 【真夜】 「意外にも、めんたい味は5位。結構おいしいと思うんすけどねー」 【真夜】 「でも、コーンポタージュとめんたい味の間に、同じ駄菓子のもう一つの味がランクインしてるんすよ」 【真夜】 「何味だと思います?」 ;SE:カウントダウンをするようにサクサク食べる音 【真夜】 「正解は……チーズ味です」 【真夜】 「結構意外じゃないすか? コンビニによってはめんたい味とコンポタ味があっても、チーズだけ置いてなかったりするじゃないすか」 【真夜】 「もしかしたら、そのコンビニの店長の好みかもしんないすけど」 【真夜】 「まあボクも嫌いじゃあないんすよ。ちゃんとチーズの香りがあって美味しいですし」 【真夜】 「ワインとチーズはよく合うって聞きますし、もしかしたらワインを飲めるようになったら、評価が変わるのかもしれないっすね。大人になっても飲めるとは限らないっすけど」 【真夜】 「ちなみに6位はやさいサラダ味の駄菓子棒、7位はカツっぽいシートの駄菓子っす」 【真夜】 「やさいサラダ味、ここら辺で見たことあります? 自分は無いっすね……」 【真夜】 「カツっぽいシートの駄菓子は美味いっすよねぇ……お財布が超極限状態の時は、むしろこっちをよく食べてますわ」 【真夜】 「そうそう。順番が滅茶苦茶ですけど、2位3位の話をしましょうか」 【真夜】 「2位は魚のかば焼きをイメージしたシートっす。あれはあれで結構美味いっすよねぇ。よくべたつくんで、自分はあんまり食わないんすけど、嫌いじゃないっす」 【真夜】 「3位はですね……実は……」 ;SE:ビニール袋から 【真夜】 「さっき買った、このキャベツ。原材料名にキャベツが入っていないでおなじみの、この駄菓子なんすよ」 ;SE:お菓子の袋を開ける 【真夜】 「うーん! ソースの良い匂いっすねぇ」 ;SE:キャベ○太郎を食べる音 以降食べながら話す感じで 【真夜】 「名前の由来は、消費者の想像にお任せするスタイルらしいっすわ」 【真夜】 「名前も不思議ですけど、パッケージのキャラクターがカエルのおまわりさんなのも不思議っすよね」 【真夜】 「ほら、動物でおまわりさんって言えば犬じゃないっすか。警察犬とかもいるし番犬もいるし。まあキャベツとは結びつかないっすけど」 【真夜】 「オッケー、検索。『キャベツ 駄菓子 カエル なぜ』……」 【真夜】 「ほー……ほぉほぉ……」 【真夜】 「どうやらカエルは、キャベツの天敵を倒してくれる上に、キャベツを食べないかららしいっすねー」 【真夜】 「この感じだと、家族は家に置いて通勤してる形なんすかね?」 【真夜】 「名前とかの設定も無いみたいなので、結婚しているかどうかも分からないんすけどね」 【真夜】 「考察するなら、彼は適性で就職先を選んだタイプだと思うんすよ。だからわりと堅実なライフスタイルを選択しているんじゃないかなって。公務員ですしね」 【真夜】 「ただその反面。生来(せいらい)の真面目さから、いくつかの出会いを見落として、恋愛を経験できないまま仕事先と家を往復している日々を送っているのかもしれません」 【真夜】 「この場合は、仕事先でパートナーを見つけるか、上司の紹介で巡り合うか、お見合いをするか、なんすかねぇ……」 【真夜】 「一応、マッチングアプリっていう選択肢もありますけど、彼の性格からすると使わなさそうなんすよ。使ったら解釈違いという事で」 【真夜】 「まあ、彼にもいい出会いがあると良いっすね」 【真夜】 「ボクもフリーなのでえらそうな事は言えないんすけどね。がはは」 ;SE:パックを開け林檎をかじる音 【真夜】 「甘酸っぱさは、林檎か、創作物から摂取するだけで十分なんすよ」 【真夜】 「ほろ苦さは……」 ;SE:缶コーヒーを開栓する音 【真夜】 「ごくっ……ごくっ……ごくっ」 【真夜】 「缶コーヒーで妥協しましょう」