Track 8

Tr2 竹仲池

【みくろ】「わぁあ! 綺麗!!! 水の色! とってもとっても綺麗です!!!」 ;環境音 竹中池 F.I 【みくろ】「緑と青が透明に溶けて、宝石みたいにキラキラしてて!」 【みくろ】「竹仲池(たけなかいけ)って、お名前だけ最初に聞いたとき、みくろ……。 みくろの知ってる池って、もっとなんか濁って水が流れてないみたいな感じあったから、あんまり期待してなかったんですけど」 【みくろ】「期待してても、絶対にその期待をうわまってた! って、みくろ、すっごく思います! こんなに綺麗な池があるだなんて、だって、いままで想像もしたことなかったですから」 【みくろ】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)──池っていう名前だけど、疎水(そすい)── 疎水って、ええっと……」 【みくろ】「なにかの目的で、ある場所から別の場所へと水を移動させるための水路が、疎水──」 【みくろ】「えっ!? この池ってじゃあ、水路なんですね……(驚きの数呼吸)── あ……けど、いわれてみると細長い……」 【みくろ】「霧縞山系(きりしまさんけい)の湧き水を、農業用水として使うための、疎水。 じゃ、このダバーってどばーって湧いて流れてるお水の全部が、霧縞山から染み出してきた湧き水なんですね」 【みくろ】「すごい……あ! この流れ落ちてるお水、よく見たら水汲み場なんですね」 【みくろ】「ってことは……飲めるんですね、お水、このまま」 【みくろ】「みくろ、えへへっ、せっかくですし、ちょこっと飲んでみちゃいます。 お水、手のひらで受け止めて──」 【みくろ】「(ごくっ、ごくっ、ごくっ──)ぷあっ! おいしい!! 御一夜のお水もすごくすっごくおいしいけど、こっちのも全然負けてないです! 湧き水汲みたてだからなのかな? きぃんと冷たくて、少し甘くて」 【みくろ】「そこのお店も、きっとお料理とかにこの湧き水を…… って、わ! 『そうめん流し』って書いてあります」 【みくろ】「ああ……けど、残念、今日、休業日なんですね。 みくろ、流しそうめん──そうめん流し、やってみたかったです」 【みくろ】「っていうか、お店も『そうめん流し屋さん』なんですね、鹿兒島。 みくろのいた雄武田(おおむた)だと、動物園のイベントとかでやるのが 『そうめん流し』で、お食事だと『流しそうめん』って感じだったから、 なんだかちょっとだけ不思議です」 【みくろ】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)──うふふっ、ないですよ。 みくろは古いレイルロオドで、人間の食べ物は基本的には食べられませんから」 【みくろ】「すぐに燃焼しちゃうものなら、お付き合い程度に食べたりもできるんですけど…… 流しそうめんって水っ気がすごく多いから……ただでさえみくろオンボロだから、燃焼不良を起こしちゃいそうで、少し怖くて」 【みくろ】「憧れはすごくあるんですけど、流しそうめん。 ウォータースクープみたいで、すっごく気持ちよさそうで」 【みくろ】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)──あ、ウォータースクープっていうのは、蒸気機関車の給水の方法のひとつです。蒸気機関車黎明期の詠国(えいこく)とか冥国(めいこく)とかで使われていたっていう」 【みくろ】「レールとレールの間……普通だったら、バラストがあって枕木があって──ってとこを、百メートルとかそのくらい掘って、水をためられる濠(ほり)にしちゃって」 【みくろ】「その濠の上を通過する列車のお腹の下にスクープ──スコップとかひしゃくって意味だそうなんですけど、濠の中の水をすくい上げて水タンクに給水できる装置をつけて」 【みくろ】「そうすれば、列車が走りながらそのまま給水できちゃうじゃないですか。 それがウォータースクープっていう仕組みです。 ……うふふっ、ちょっと流しそうめんっぽくないですか?」 【みくろ】「(呼吸音)(呼吸音)──あ、どっっちかっていったらパン食い競走の方が近いかもですね、たしかに。走っていくのこっちからですもんね。補給うけるために」 【みくろ】「流しそうめん……そうめん流し? だったら、向こうから流れてきてくれるから、そっちの方がずうっと楽で楽しそう」 【みくろ】「(呼吸音)(呼吸音)──あ、いえいえ!? みくろは無いです。ウォータースクープで給水受けたことなんて。っていうか、日ノ本には一個もなかったと思います。ウォータースクープでの給水うけられるような路線って」 【みくろ】「……なのにみくろが知ってる理由は──それは単純なことなんですけど──」 【みくろ】「……みくろの──みくろと38696の帝鉄時代の話って、そういえば、まだマスターに詳しくは話してなかったなかったですね」 【みくろ】「ええと、みくろは甲組(こうぐみ)── あ、甲乙丙の甲です。ナンバーワングループっていう意味……」 【みくろ】「本線を特急列車とかひいて、バリバリ走るのが、甲組の機関車とレイルロオドです。 東峡道本線を走ってたころの、ハチロクおねえさまみたいな」 【みくろ】「おねえさまと違って、みくろはロールアウト直後から乙組で…… 走って走って、新しい機関車たちがどんどん走るようになってくると、どんどん旅客列車を引くことも減っていって……最後は入換(いれかえ)組で、入換のお仕事を任されるようになってたんです」 【みくり】「でね? みくろが入換にまわったころには、海外機のこがとっても多かったんです、入換組に」 【みくろ】「髑国(どっこく)のこが一番多いかったと思います。それと、詠国のこも、冥国のこも。もともと、九洲って海外機が多い土地でしたし」 【みくろ】「けど、8620形──おねえさまの登場以降。つまり、蒸気機関車が国産で量産できるようになったら、わざわざ海外機を輸入するようなことも激減して── だからみくろが入換にまわったころには、もう時代おくれになっちゃった海外機のこたちも、やっぱり入換にまわってたんです」 【みくろ】「……そのころはもう大廃線の色も濃くって、お仕事自体も激減していて── だから、おしゃべりはできました。面白いことも、さみしいことも。たくさんたくさん、できたんです」 【みくろ】「そのころに、です。ウォータースクープのこと、教えてもらったのも」 【みくろ】「……レイルロオド同士で旅行だなんて、夢にも思えなかったような時代でしたから。 そこのたちともそれっきり。配置が変わって離れちゃったら──二度あうことも、ほとんどありえなかったんですけど……」 【みくろ】「もしも今また会えたなら、ここに、竹仲池に一緒に来てみたいなぁって思います。 流しそうめん、食べられなくても、とったのマスターに食べてもらって、 ウォータースクープってこんな感じだったの? って、みくろ、聞いてみたかったです」 【みくろ】「(思い出にひたりつつ、水音を静かに聞く8呼吸ほど)」 【みくろ】「あ! ですねっ。うふふっ。走り続けていたらいつか、どこかのレールのその先で、ばったりまた会えることがあるかもしれないですよね」 【みくろ】「……あの、ね? マスター。 そのときのため、予習のために、みくろ、ひとつだけマスターにお願いしてもいいですか?」 【みくろ】「今日は休業日みたいですけど、またいつか……」 【みくろ】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)──はい! うふふっ、約束ですよ!」 【みくろ】「そのときにはみくろ、きっと上手に流しそうめんをスクープして、マスターにあーんってしてあげて! たくさんたくさん、おいしくたべてもらっちゃいますから♪」 ;環境音 F.O.