デート
そういえば、勇者様。
勇者様って詠唱魔法は、どれくらい使えるんですか?
いえ。ちょっと好奇心で、聞いてみただけです。
魔法使いじゃない人は、
基本的に詠唱系の魔法は使えないって、言いますけど。
勇者様レベルになれば、少しは使えるのかなと、思いまして。
……そうですか。やっぱり、少しは使えるんですね。
まあ確かに、魔王を倒すうえでその辺の詠唱魔法は必須ですから、
当然と言えば、当然ですか。
私?
私は魔法使いとして、ちゃんと訓練を積みましたから。
結構色々な詠唱、使えますよ。
勇者様がさっき言った、魔界のゲートを閉じる魔法も、もちろん使えますし。
火属性や風属性の攻撃魔法全般、守護結界にエンチャント……
とかが得意ですかね。
ええ。そうですよ。結構私、戦闘系の魔法、使えるんです。
というのも、勇者様のとなりで戦うのが、昔からの私の夢でしたから。
沢山、勉強したんですよ。
……でも。結局私、その夢をかなえられなかったんですよね。
いくら希望しても、
「女である」っていう理由だけで、戦争に参加させてもらえなくて。
だから。実は私、勇者様が戦ってる姿、一度も見たことないんです。
……いつか、見れるといいなあ……。
あなたの戦う姿。神の領域とまで言われる、勇者様の、強さを。
……ん?「もう強くない」……。
それは、どういう意味です?
反動……?
はい。
はい。
はぁ……。
え。初めて知りました。そんな話。
ていうか勇者様、それってもしかしなくても、
結構な国家機密……ですよね。
……でも、なるほど。そうですか。
魔王を倒した反動で、力をほぼ失った、ですか。
……いえ。残念なんかじゃありません。
勇者様は勇者様。
強さ以外にも、あなたの魅力は沢山ありますから。
私のあなたへの想いは、揺るぎませんよ。
ただ、国家機密なわけですし、
あんまりその話、外でしない方がいいとは思いますよ。
どこで誰が聞いてるか、分かりませんから。
ええ。慎んで下さい。
……ちなみに、なんですけど。
今の力をほぼ失った勇者様は、どれくらいの強さなんですか?
一般の剣士くらい、ですかね?
……は?
はは、呆れました勇者様。
それでもこの国のトップ……ですか。
全盛期は本当に、神の領域だったんですね。
流石勇者様です。
あ。そうこう言ってるうちに、つきましたよ。
今日のデート場所その1。
カフェアンティークキャンディーに。
入りましょう。勇者様。
(店員に、お好きな席へどうぞと言われる)
ん。じゃあ、そこの席にしましょうか。
ん。しょ……。
(店員に注文を聞かれる)
勇者様、決まってます?
ん。じゃあ私は、ミルクセーキでお願いします。
(店員が去る)
そういえば勇者様。知ってますか?
最近町中で、変な病気が発生してるって話。
ええ。病気です。
多分個々の新聞にも、載ってると思うんですけど……。
あ。ありました。ほら。
「石化病。城周辺を中心に発生する」
一面の見出しに、なっているでしょう?
そう。石化病。それが病名です。
かかった人は足から順に石になり。
およそ二日間で、モノ言わぬ石像へとなり果てる。
名前の通りの、恐ろしい病気ですよ。
調査によると、石像になった人も生きてはいるようなのですが、
体が固まったまま意識だけあるというのはむしろ、
地獄のような苦しみでしょうね。
治療法、早く見つかると良いんですけど……。
ふむ……。きのう一日で30人……。
感染症……とかなんですかね……。
……え?見覚え、あるんですか?
この、石化病を?
……なるほど。
魔界のゲート付近の村で……ですか。
いえ。報告する必要は無いんじゃないですか?
勇者様の魔王討伐までの活動記録は、
詳細に記載されたものが国に納められていますし、
それを見落とすほど、研究者も馬鹿じゃないでしょう。
公表されてないだけで、その辺の事実には、
既にたどり着いてると思いますよ?
ま。念のため報告したければ、すればいいと思いますけど……。
……ん?
ああ、いえ。別の記事で、少し、気になるものがありまして。
ほら。この記事です。
「国が大型の採掘装置を20台輸入」っていう……。
妙……ですよね。
この国、さして鉱物資源が豊富なわけでも無いのに、
こんなもの輸入するなんて。
ふむ……。
ま、石化病の話に比べれば、どうでもいいことですか。
えっと、ほかに面白そうな記事は……。
……って、すいません。デート中なのに、新聞を読みふけってしまって。
私、ダメなんですよね、読み物を手にすると、
没頭してしまう癖があるといいますか……
片づけますね。
あ。そんなこと話してるうちに、
注文したもの、出てきましたよ。勇者様。
(店員が注文したものを持ってきて、伝票を置いていく)
はぁー……。(ため息)
ああ。すいません。つい溜息をついてしまいました。
勇者様があまりにも、人気者なものですから。
もしかして気づいてないんですか?
ほら、これの事です。
見ての通り、伝票の裏側にあの子の住所が書いてあります。
ご丁寧にハートマークまで添えて、あなた宛てに、ね。
隣に私がいるというのに、普通こういうことするでしょうか?
大人しそうなフリして、とんだビッチですよ。まったくもう……。
で、勇者様的には実際のところ、どうなんですか?
何がって。
「あの店員と私、どっちが好みか」って話です。
……ええ。そうですよね。
勇者様は私以外の女を、信用できないんですから。
私の方が好み……というか、比較対象にすら、なりませんよね。
ありがとうございます、勇者様。
なんですか勇者様。その顔は。
そうですよ、わざと聞こえるように言ったんです。
別にいいじゃないですか。やきもち焼いたって。
私、勇者様をたぶらかそうとする女は、みんな嫌いです。
私のモノなのに……。
……ふむ。店員さんはビッチですが、ミルクセーキはおいしいですね。
……むかつきます。