Track 7

帰路にて

あ。勇者様。起きました? ……寝ぼけてるんですか? 図書館の受付奥の、部屋ですよ。 私の耳舐め手コキで射精して、お昼寝して、今は夕方です。 ん。おはようございます。 ええ。今日の新聞を、読んでました。 いや、勇者様は読まない方がいいですよ。 例に倣って、ろくな記事がありませんから。 勇者様のあの記事が出回って三日。 まさか、国民がこんな簡単に勇者様に牙をむくとは、 思ってもみませんでしたよ。 やれ国から出てけだの。損害賠償だの。 そんなことばかり。 今日は町で、アンチ勇者のデモもあったらしいですし。 あんな適当な記事を真に受けて、 ホントこの国には、愚民しかいませんね。 残ってるやつらもみんな、石像になればいいのに。 ……そうですね。言いすぎました。 でも、向こうも言いすぎなので、別にいいじゃないですか。 はぁ……。 ことさら厄介なのは、悪質なデマまで広がっていることですよ。 「実は勇者はこの国を亡ぼさんとする、魔王の手先だった」みたいな。 何の根拠もない、下らないことを触れ回っている輩がいて。 それがきわめて、不愉快です。 ……ねえ、勇者様。もう一度新聞社に、抗議しに行きませんか? この前は報道の自由だのなんだので、取り合ってもらえませんでしたから。 今回は武力行使で、人質でもとって脅してやりましょうよ。 それで、あの記事を撤回させるんです。 ……そう、ですね。確かに。 そんなことをしたところで、今更無駄でしょうね。 私も、分かってます。 はぁ……。 ……。 ……あの、勇者様。 日も傾いてきましたし、そろそろ勇者様、家に帰るつもり、ですよね。 では……その。勇者様。 今日私、勇者様の家に泊まっても……いいですか? いいんです、別に。 勇者様と一緒にいるところを見られたって、今更ですし。 私、落ち込んでいるあなたのそばに、いてあげたいんですよ。 ダメですか? ふふっ。はい。 それでは図書館の閉館処理をしてきますから。 一緒に。帰りましょう、勇者様。 そうそう、聞いて下さいよ勇者様。 最近私、「振動魔法」を覚えたんです。 はい。その名の通り、物体を振動させる魔法ですよ。 ああ、いえ。そんなに難しい魔法ではないんです。 子供でも、頑張れば習得できるくらい。 でも、この魔法で振動させた物体をおちんちんに当てると、 無茶苦茶気持ちいいらしくって。 だから勇者様に試してみたくて、覚えました。 今度使ってあげますね。勇者様。 ふふっ。そうですね。 この前のわた化魔法といい。 最近の私、エッチのためにばかり、新しい魔法を覚えてますね。 我ながらほんと、清楚とは程遠い女の子ですよ。 でも、いいんです。 だって勇者様はエッチな私のこと、好いてくれてるんですから。 はい。これからもいっぱいエッチな魔法、覚えるので。 よろしくお願いしますね。勇者様。 ふふっ。 ……ん。 ……っ!勇者様っ! 大丈夫ですか!?勇者様。 酷い……頭に瓶を、投げるなんて……。 ちょっと待っててください。私、見てましたから。 あの窓からおっさんが、貴方にビンを投げたんです。 ちょっと、ボコボコにしてきます。 いや、あなたが無傷だからと言って、見過ごすわけには行きませんよ。 大丈夫です。半殺しにしたあと、適当に脅して、口止めしますから。 勇者様はそこで、待っていてください。 ん……。 ……。 はぁ……。(溜息) ……分かり、ました。 勇者様がそこまで言うなら、ほこを収めます。 でも。放っておいたらこれからこういう事、さらに増えていきますよ。 ……いいえ。そんなことは心配しなくていいんです。 あなたへ投げられるビンが、私へ向かうことがあろうとも。 全く問題、ありませんから。自分のことを。心配してください。 ……はぁ。(ため息) ……行きましょうか。 ……。 【呼吸音10秒】 ん……。 すいません。そうですね。 雰囲気を、変えたほうがいいですよね。 すぅ……、ふぅ……。(深呼吸) よし。切り替え完了。 じゃあ、勇者様。 いまから、私が勇者様のことを好きになったきっかけを、話してあげます。 はい。確かまだ、話したことありませんでしたよね。 と言っても、大した話では、ありませんが。 ……私さ。 こうして司書になる前も、利用者としてよく、 あの図書館に入り浸ってたんですよね。 はい。休日の朝から晩まで図書館に居座って、読書をして……。 それが昔の私の、生活でした。 それで、あれは確か、4年くらい前だったかなあ……。 ある日、いつも通り図書館へ行くと、 窓際の席であなたが、読書をしてたんですよ。 そう。勇者になる前の、あなたです。 その時のあなたは、どうみても明らかな寝不足で、 何度も何度もあくびをして舟をこいで、今にも寝落ちしそうな感じでした。 でも、自分の頬をつねることで必死に眠気をこらえて、 剣術指南書の文字列を追っていて……。 そんなあなたを見て当時の私は、何となく察したんです。 「ああ、たぶんこの人は何か成したいことがあって、 そのために睡眠を削って、ここにいるんだろうなあ」って。 そしてその姿がなんか、かっこよかったんですね。 みんながみんな魔王の魔の手におびえて過ごしていたあの頃の世界で、 何かをなそうと必死に努力する姿が、本当に……。 ……はい。それがきっかけで、あなたを好きに、なりました。 あ、もちろん「きっかけ」ってだけで、 好きになった理由は、これが全てじゃないですよ? 今のあなたへの好意が百として、この時1が芽生えたって話です。 そのあと数年経ってから、あの図書館の司書になり、 あなたと話すようになってあなたの人柄を知り、 本当の意味で、ほれ込みました。そこは、勘違いしないでくださいね。 あなたへの私の愛は、 一目ぼれとかそういう軽いものでは、断じてないんですから。 ふふっ。そうですね。 こういう話は少し、恥ずかしいですね。 ……と。そんなこと言ってる間に、あと少しじゃないですか? 勇者様の家。 はい、何度か行きましたから、もう覚えて…… ……え? 煙……ですよね。 あそこって、勇者様の家が…… あ、勇者様! SE:しばらく走って止まる。 はぁ……。はぁ……。はぁ……。(走ったので息切れ) ……。 SE:火の音 ……嘘……、ですよね。 ……燃えて、るんですか? 勇者様の家が、燃えて…… ……なん、ですか?これ。 なんなんですか……? 嫌がらせとかのレベルじゃ、ない、でしょう……。 ……どい……。 ひどい酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い! ひどいですよこんなの! だって勇者様はこの国を、この世界を救った英雄なんですよ!? それがどうして! ……どうしてこんな仕打ちを、受けなきゃいけないんですか? 勇者様……? ……。 ……くだらない強がりを。言うんですね。あなたは。 そんなひどい表情で、よくもまぁ……。 いえ、野宿なんか、させませんよ。 ……私の家に泊まってください。勇者様。