Track 3

「読み聞かせちゃうわよ!!」

「……やっぱりこの時期は味噌ラーメンも捨て難いわよね!」 「……」 「……はっ! って、せ、先生!? わ、私、寝かし付けしていたんじゃなかった!? な、何かラーメンを食べに行く流れになってるんだけどっ!?」 「う、ううっ……先生も途中から寝かし付けから脱線してたの、気付いてたなら言ってくれたら良かったのに……」 「えっ? 私が楽しそうにラーメンの話をし始めるから止められなかった、ですって?」 「そ、そんなに楽しそうにラーメンの話、してたかしらぁ!? け、結構頑張って先生を寝かし付けようとしてたはずなんだけど……」 「……」 「……と、途中まで……だけど……」 「……」 「さて! 気を取り直して次の寝かし付けに移るわよ、先生!!」 「まだちょっとラーメンの余韻が残ってると思うから……近いうちに一緒に食べに行ってあげてもいいから♪」 「ふふっ、これで先生も安心して眠れちゃうわね。私も先生とのラーメンデートが決まって良い気持ちで寝かし付け、しちゃうわ」 「……デートじゃない……?」 「ま、まあ、デートかどうかはともかくとして……次の寝かし付けは……これよ」 「寝かし付けの定番といえばやっぱり本の読み聞かせ。私が先生に、この本を読んであげるわ」 「ふふっ、ハードボイルドでアウトローな私にぴったりな本といえば……やっぱりこれだと思うの」 「ふふっ、先生はこの本、知ってるかしら?」 「大自然より産まれ、人ならざる仲間を引き連れて巨悪を撃ち、財宝を根こそぎ奪ってしまう正義のアウトローの物語よ!」 「ふふーん♪ 先生はー、このお話、知ってるかしらー?」 「……えっ!? 多分だけど、その話は桃太郎じゃないか、ですって!?」 「……こ、こんなに少ないヒントからタイトルまで推察するなんて……流石先生ね……大人って凄いわ……」 「えっ? ちょうど桃太郎を読みたいと思っていたから助かった、ですって!?」 「ふふっ、そ、そうよ! も、もちろん! 先生がそろそろ桃太郎を読みたくなってるだろうというのも加味してのチョイスよ!」 「そんなに楽しみにしている先生をお待たせするのは悪いわね。早速桃太郎、読んであげるわ」 「それじゃあ早速……」 「……ふむ、ふむふむ……ちょっと場所は書かれていないけど、昔どこかにおじいさんとおばあさんが居たみたいね」 「おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に行ったそうなの」 「……山で芝刈りということは、おじいさんは森林伐採で作られたゴルフ場の整備の仕事でもしてるのかしら。おばあさんはおばあさんで川を汚すのを気にせずに洗濯をするなんて、とんだアウトロー夫婦ね」 「……ふむ、なるほど。そしたら川の上流から巨大な桃が流れて来たらしくて、おじいさんと食べようと持ち帰ったらしいの。おばあさん、アウトローなだけあって力が強いわね」 「そして家でおじいさんと一緒にさあ食べようと思ったら桃が割れて、中から可愛らしい女の子が出てきたらしいわ」 「……赤ちゃんって、桃からは出てこないわよね? キャベツ畑からコウノトリが運んでくるもののはずだけど……まあ、フィクションだから良いかしら」 「……「桃から生まれたから桃太郎」と名付けたらしいわ。マンゴーやメロン、パパイヤから生まれてたらと思うとぞっとするわね……」 「ふむ、ふむふむ……ふむ……そして桃太郎、すくすくと元気に育ったらしいわ。あっという間に大きくなるなんて……どこまで大きくなるのか心配になるけど……」 「そしてある日、桃太郎は鬼を退治しに行くと決心したらしいの。きっとどこかのヤバイ筋からのタレコミでもあったに違いないわ、これは」 「そしてなんやかんやあってついには、鬼が根城にしている鬼ヶ島へと向かい桃太郎は旅立つことになったみたいね」 「こう……悪の組織なんだからもうちょっと目立たないようにしたほうが、とは思うけれど……目立つのは目立つのでアウトローなのかしら……」 「おじいさんとおばあさんがなけなしのお金で揃えた服とおばあさんが丹精込めて作ったきびだんご……流石の私でもちょっとグッときちゃうじゃない……」 「さて……それから……ふむ、ふむふむ……なるほど……鬼ヶ島へ向かう道中、犬とキジとサルをきびだんごで買収した、と。流石桃太郎、アウトローだわ……モノで釣っちゃうなんて……」 「ふふっ、先生もご存じの通り、やっぱりチームは四人一組が一番なのよ。桃太郎もそれは分かっていたようね」 「それにしても……1つあげただけで危険を冒してまで鬼退治についてくるなんて……きびだんごってそんなに美味しいのかしら? 見かけたら今度食べてみたいわね」 「でも……そんなに癖になっちゃうよう食べ物……何か違法でアウトローなものでも入ってるのかもしれないわ……」 「えっ? 買って来てあげるからその代わり何か言うことを聴いて、ですって!?」 「……か、考えておくわ。せ、先生の言うことだったらきびだんごなんて要らずに聴くけど……」 「……それで、その後は……特に問題もなく鬼ヶ島に到着したそうね。桃太郎一味の恐ろしさに鬼たちも寄り付かなかったのかしら」 「さて、鬼ヶ島についてからはどんなことに……ふむ、ふむふむ……なるほどねー……」 「詳しくは書かれていないのだけれど……鬼はあっという間に退治されちゃったそうよ。そしてもう悪さをしないと降伏しちゃって集めた金銀財宝を桃太郎に渡したみたい。金ならいくらでもやる!ってやつかしら」 「……鬼というのは悪魔の一種みたいなものよね……? それが降伏して二度と悪さをしないと誓った上にお宝を全て渡しちゃうなんて……どんな凄惨な鬼退治が行われたのか……アウトローな私でもちょっと想像できないわ……」 「そして……家に帰った桃太郎はおじいさんとおばあさんと幸せに暮らしたそうよ」 「……奪ったお宝で悠々自適な生活……アウトローよ……とんでもないアウトローだわ……」 「桃太郎……これは経営にも生かすべ内容ね……。後からじっくりと社員にも読み聞かせなきゃ……」 「さて、先生? 私の読み聞かせはどうだったかしら? ふふっ、あまりにも上手過ぎて眠れていないみたいね?」 「……」 「えっ? 読み聞かせというのは文字通り読んで聞かせることであって、読んだ内容を聴かせることじゃない、ですって!?」 「……な、なんですってー!?」