白萩編 第一章「ふたりの出会い」
村外れの神社。
ここは私とお姉ちゃんだけが知っている場所。
白萩「神様、どうか私のお願いを聞いてください。」
寂れているけど、誰にも言えないお願い事するにはうってつけの場所。
白萩「神様…私にお友達をください。」
白梅「人が来ること自体珍しいのじゃが、願い事も珍しいのう。」
白萩「えっ…!」
誰かがサッと、屋根から飛び降りて来た。
ふわふわとした何かが見えた。羽…?
それはあまりにも軽やかな姿だった。
白萩「あなたは…神様ですか?」
白梅「神様?…う~む、おそらく違うのじゃ。わしは見ての通り狐じゃ。」
白萩「お狐さま?でもそのお姿は…」
羽のように見えたふわふわは尻尾だった。
よく見ると、お耳もふわふわしている。
狐は本でしか見たことないけれど、確かによく似ている。
でも…尻尾と耳以外は人間にしか見えない。
白梅「お主の疑問はもっともじゃ。わしはもともと人間じゃからの。」
白萩「人間のお狐さま…」
人間だけどお狐さま。
それならきっと、あの尻尾とお耳は動物のようにふわふわで気持ちいい。
触りたい。なんとかして触れないかな?
白梅「そうじゃぞ。耳も尻尾も本物じゃ。触ってみるかの?」
白萩「いいんですか!」
祈りが通じた!やっぱり神様だ!
白梅「ほれ」
もう我慢出来ない!
白萩「は~、もふもふ…もふもふ…」
気持ちいい。すごく。
尻尾のもふもふ具合はもちろんのこと、お耳も最高の触り心地。
お耳を撫でると、くすぐったそうに少し垂れていく。
白梅「そ、そろそろいいかの?」
白萩「あっ、ごめんなさい!」
つい触りすぎてしまった。初対面なのに失礼だったかも…
白梅「それはそうとお主、願い事をしていたようじゃの。」
白萩「あ…はい。友達が欲しくて…」
白梅「友達、のう。村には年の近い人間はおらぬのか?」
白萩「いるんですけど…みんな私によそよそしいんです。物心ついたときからそうでした。
でもお姉ちゃんがいて!お姉ちゃんはすっごく優しかったんです!でも…」
白梅「でも?」
白萩「お姉ちゃんも少し前から人が変わったように私にきつく当たるようになって。
私が悪かったのかなって思って何度も謝ったんですけど…」
白梅「姉がもとに戻ることはなかった、と。」
白萩「はい」
お姉ちゃんの話になるとちょっと悲しくなってしまう。
まだ慣れないな…
白梅「お主、名前はなんというのじゃ?」
白萩「あ、あの、白萩、です。」
白梅「白萩…よし、ハギじゃ。わしは白梅。今日からお主の友達じゃ!」
白萩「ふぇっ!」
お狐さまがお友達?本当に?もふもふのお友達?
白梅「なんじゃ、わしじゃ不満かの?」
白萩「ないです!そんなことないです!白梅さまがお友達になってくれて嬉しいです!」
白梅「“さま”はやめるのじゃ。呼び捨てで構わんし敬語もいらんのじゃ。友達じゃからの。」
白萩「じゃあ…白梅ちゃん!」
神様はちゃんと見ててくれたんだ。
こんなに可愛いお友達ができるなんて、夢にも思わなかった。
白萩「白梅ちゃんはずっとここに住んでるの?」
白梅「そうじゃ。ずっとここで季節の流れを見てきたぞ。数十年…そろそろ百年になるのじゃ。」
白萩「そんなに!?私と同じくらいの年に見えるのに。」
白梅「狐になってから容姿が変わらなくなったのじゃ。」
白萩「それはちょっと羨ましいかも。」
白梅「じゃろう?白萩も狐になりたかったらいつでも言うんじゃぞ。」
白萩「あはは!考えとくね!」
こんなにお話して、こんなに笑ったのはいつぶりだろう。
楽しい。もっといっぱいお話したい。
白梅ちゃんともっと仲良くなりたい。
心の底からそう思った。