Track 7

白萩編 第三章「楽しいひととき」

白萩「白梅ちゃ~ん!遊びに来たよ~!」 白梅「う~ん…ハギか…?」 寝ぼけ声とともに白梅ちゃんが出てきた。 寝癖がすごい。 白萩「おはよう白梅ちゃん。結構ねぼすけさんなんだね。」 白梅「朝は昔から弱いのじゃ~。」 白萩「そうなんだ、ふふっ。」 ねぼすけさんの寝癖を直してあげた。 くすぐったそうにしてる白梅ちゃんを見てると、妹ができた気分だ。 白梅「して、何をするのじゃ?」 白萩「これとかどうかな?昔お姉ちゃんとよく遊んだんだ~。」 あまり他人に自慢できることはないけれど、唯一これは得意だった。 白梅「お手玉か。懐かしいのじゃ。」 白萩「はい、これが白梅ちゃんのぶんね。」 白梅「うむ。」 白萩「じゃあいくよ~。」 白萩・白梅「あんたがたどこさ ひごさ ひごどこさ       くまもとさ くまもとどこさ せんばさ       せんばやまにはたぬきがおってさ       それをりょうしがてっぽでうってさ       にてさ やいてさ くってさ       それをこのはで ちょいっとかーぶーせ」 白萩「わぁ!白梅ちゃんうま~い!」 白梅「ハギこそ、わしについてくるとはやるではないか。」 知ってるよ、白梅ちゃんちょっと落としそうになってたの。 だからちょっとだけ意地悪しちゃおうっと。 白萩「じゃあ今度はもうちょっと早くやろう!」 白梅「の、望むところじゃ!」 白梅「は…ハギは上手いのじゃ…」 白萩「そんなことないよぉ~えへへ。」 すごく楽しかった。お姉ちゃんは苦手だから、こんな速さまでついてこられなかったし。 ふと空を見上げると、てっぺんにお日様が見えた。 白萩「そろそろお昼だね。白梅ちゃんは普段何を食べてるの?」 白梅「狐になってからは腹が空かなくなったのじゃ。気が向いたときに木の実を取って食べるくらいじゃの。」 白萩「えっ、そうなんだ…じゃあこれいらないかな…?」 白梅「おいなりさん?」 白萩「お狐さまだし好きなのかなって。」 白梅「狐になってから食べた覚えがないからのう。どれ。」 一口食べた白梅ちゃんは一瞬毛が逆立ったように見えた。 そして一気に食べ始めた。 白萩「わわっ、すごい勢い…まだたくさんあるから食べていいよ。」 ちょっとびっくりしたけど、こんなに美味しそうに食べてもらえるなんて、嬉しくてたまらなかった。 私にもまだ、誰かのためにできることがあったんだ、そう思うと安心できた。 白梅「ごちそうさま…美味かった…美味かったのじゃ!白萩、美味かったのじゃ!」 白萩「はい、お粗末さまでした。ふふ、そんなに喜んでもらえたら作ったかいがあったよ。」 白梅「わしも新発見だったのじゃ!長く生きてもまだまだ知らないことがいっぱいあるのじゃ!」 白萩「あはは、白梅ちゃん興奮しすぎだよ~。」 白梅「狐になってからこんなに興奮したのは初めてじゃ!白萩がおいなりさんを作ってきてくれたおかげじゃ!」 白萩「私のおかげ…」 白梅「そうじゃぞ!あんなに美味しいものをくれた白萩はわしの大親友じゃ!」 白萩「もう、物で釣ったみたいじゃない。ふふっ。」 白梅「あははっ。」 二人で笑いあった。神社に響くその声は暖かなものだった。 白萩「日が暮れてきちゃったね~。」 時の流れがこんなに早く感じたのは久しぶりだった。 白梅「そうじゃ、ハギ、ちょっとついてくるのじゃ。」 白萩「白梅ちゃん?どうしたの?」 どこに連れて行くんだろう。 疑問は感じたけど、白梅ちゃんならきっと私が喜ぶところに連れて行ってくれる、そう思った。 神社の脇道から森の獣道へ。 人が通れる程度には草が避けられてある。 きっと白梅ちゃんが度々行き来しているのだろう。 少しすると森を抜け、高台にでた。 白萩「あ…きれい…」 白梅「じゃろう?」 高台から見渡せるのは村の反対側。西の空。 夕日と湖。ふたつの色が混じり合い、きらきらと輝いていた。 村の近くにこんな場所があったなんて知らなかった。 一人で閉じこもってたら、きっと見つけられなかった。 白梅「ハギは大切な友達じゃ。また今日のようにたくさん遊んで、たくさん笑って、この場所で夕日を見ような。」 白萩「もちろんだよ!えへ、白梅ちゃん、これからもよろしくね!」 白梅「うむ!」 またこの場所で会えることを、今はただ、心の底から祈った。