オーソドックスに、竹耳かきです♪(左耳)
;ボイス位置:7 普通に会話
【瀬奈】
「わあ……。やっぱり左耳も素晴らしいです。この芸術的な耳垢分布……!! ではでは、失礼します!」
;SE:1分ほど耳かき音
【瀬奈】
「はあんっ、んんっ! こほん。そ、そうです。お話、お話さえしていればわたしは大丈夫……。ええと、ええと……」
【瀬奈】
「で、ではっ! 何故わたしがここまで耳かきを愛するようになったのかについて、お話させて頂きますね?」
【瀬奈】
「あれは、幼少の頃、というかわたしの持つ、最古の記憶なのですが……」
【瀬奈】
「それが耳かきをしてもらっている場面なのです。母の実家、つまりはわたしのお祖父様とお祖母様のお家ですね。そこの縁側で、セミのじい、じい、という声をバックグラウンドに、白いワンピースを着た母にしてもらった耳かき……」
【瀬奈】
「その時感じたときめき、心地よさは言葉にするのは難しいのですが、とにかく極上でして。その記憶がわたしという一人の耳かき狂いを作り上げたといっても、過言ではないでしょう」
【瀬奈】
「ある意味では、わたしはあの日、あの時の耳かきに囚われてしまっている、とも言えるのかもしれません」
【瀬奈】
「その後、何度も母に耳かきをねだりましたが、ダメでした。いえ、心地いいのはいいのですが、やはり何かが足りず……。プロの耳かき師を頼っても結果は同じ……」
【瀬奈】
「ならばあの絵も言われぬ最高の空気感を、わたし以外の他の誰かに与えられるようになれば。自身で再現できるようになれば。手法を確立し、わたし以外の誰かにその技術を伝授できれば。きっと、巡り巡ってあの日の耳かきをもう一度味わえる。そう考えたのです」
【瀬奈】
「そういった経緯で、今でも耳かきをしてもらうことは好きですが、耳かきをするのはもっと好きになってしまって」
【瀬奈】
「こうしてわたしは耳かきに夢中な日常を、今も過ごしているのです。……こんな話、初めてしたかもしれません」
【瀬奈】
「言葉にしてみると、我ながらおかしな人だな、とは思いますが……」
【瀬奈】
「なんというか、恥ずかしくなってきました。自分についてこんなに長くお話するというのは、その、うう……」
;SE:5秒ほど耳かき音
【瀬奈】
「話題、変えましょうか。そうしましょう。ね?」
【瀬奈】
「とは言っても、わたしから提供できるお話は耳かきについてのことばかりでして」
;SE:10秒ほど耳かき音
【瀬奈】
「たとえば今。この耳かきで掘っているのは、耳の穴の入り口から大体一センチのあたりなのですが……」
;SE:5秒ほど耳かき音
【瀬奈】
「ここがベストな耳かきポジションなんです。というのも、これより深い場所には殆ど耳垢がないので。それにあまり奥のほうに耳かきを差し入れると、傷つけてはいけない場所を傷つけてしまうかもしれないですし……」
【瀬奈】
「耳を気持ちよくしたいと思って、耳をかえって傷つけてしまうことのないように、実際の耳かきでは細心の注意を払わなければならないんです」
【瀬奈】
「と、耳かきにはある程度の危険が伴うわけですが、そんな危険な行為を他人にしてもらうこと自体、ちょっと異常ですよね」
【瀬奈】
「理性的に考えれば、耳かきを人に依頼するなんて危ないですよね。今回のあなたはその、例外と言いますか、当てはまらないかもしれませんが……」
【瀬奈】
「とにかくっ、耳かきって、人と人とのコミュニケーションの中でもかなり特殊だと思いませんか? だって、急所をあえて人にゆだねるんですよ? ただ気持ちいいからやって欲しいなんて理由で」
【瀬奈】
「それでいて、そんなある意味危険な行為が古来より脈々と続いている……。なんというか、わたしはその事実に神秘性、ロマンを感じてしまうのですよね」
【瀬奈】
「文献に初めて耳かきが登場したのは室町時代だそうです。ですから例えば戦場では無敗を誇る、注意深くかつ勇猛な武士も、おうちで奥さんに耳かきをしてもらっていたかもしれないわけですね」
【瀬奈】
「そんなふうに想像を巡らせると、いまこうして行われている耳かきにも、感慨深く感じられますよね……」
【瀬奈】
「耳かきが本来無駄で、無意味で、その上一つ間違えれば危険でも、人々の間で親しまれながら長い歴史を紡いできた、という事実……」
【瀬奈】
「やはり耳かきって不思議で、魅力的ですよね……。あなたもそうは思いませんか?」
【瀬奈】
「あの、聞いてますか? もしもし、もしもーし」
【瀬奈】
「気持ちよく感じてくださっているだけならいいのですが、もう少しわたしの話に耳を傾けてくれても……」
【瀬奈】
「あれ、ちょ、ちょっと……? 少しは反応してくださーい」
【瀬奈】
「うう、今回ばかりは、自分の耳かきテクが憎いです……」
【瀬奈】
「そうこう話しているうちに、左耳の耳かきもこれにて終了です。お疲れ様でした」
【瀬奈】
「いかがだったでしょうか。わたしの耳かきは。心地よく感じていただけたなら嬉しいです」
【瀬奈】
「ですが、まだこれは序の口。今回はただ耳かきをしただけ、ですから」
【瀬奈】
「次回からはASMR作品から逆輸入したテクニックを使って、あなたの耳を、体を、心を更にとろけさせてみせます」
【瀬奈】
「また近いうちに、お声をかけさせて頂きますね?」
【瀬奈】
「それでは、またお会いしましょう♪」