02
蝶「んっ……ふぅー」
蝶「ワシはこの景色を酒のつまみにするのが好きでな」
蝶「そうじゃ、お主よ。ワシとひとつ遊びをせぬか」
蝶「そんなに難しいことではない。ただの遊び……じゃからな」
蝶「そこを見て見ろ。ちょうど桜の枝先に一羽の鳥がおるじゃろ?」
蝶「鳥はいずれ飛ぶもの、あの鳥が左へ飛ぶか、右へ飛ぶか賭けようではないか」
蝶「ククク……とても簡単であろ?」
蝶「ワシとお主、どちらが勝ってもおかしくはない、じゃろ?」
蝶「賭ける物は……そうじゃなぁ。当てた者の言うことをひとつきくというのはどうかの?」
蝶「ワシはこう見えても……おっと、いかんいかん。口が滑るところじゃった」
蝶「クシシ……」
蝶「お主がワシに何を求めるのか……楽しみじゃな」
蝶「んっ……ふぅ」
蝶「さて、そろそろよいか、そうさな……ワシはあの鳥は左へ飛ぶと見た」
蝶「お主は右でよいな?」
蝶「どちらも同じ方向では賭けにならんからの」
蝶「クク……さぁ、しばし待つとしよう」
蝶「鳥がどのように行動するか、というのは人の思いが届かぬものだからな」
蝶「結果がどうなるか、ということだけに注視するとしよう」
蝶「その時はいつになるか、とな」
蝶「んっ、釣りと同じじゃ、待つのを楽しめ……」
蝶「なに、時間はたっぷりあるからな、当てたときの願いでも決めやろうかの」
蝶「それで、お主はワシに何を望むか、決めたか? 金でも酒でも何でもくれてやるぞ」
蝶「何でもいいぞ。本当に……」
蝶「その代わり、ワシが勝てばワシも同じだけの要求をさせてもらうがな」
蝶「……なに? さっき言いかけたことを知りたい……じゃと?」
蝶「ククッ、お主よ。本当にそんなことでよいのか? あまり欲がないのか、変り者なのか……」
蝶「まぁ、不思議なヤツであることには変わりないな。なにせ、金や酒よりもワシのことが知りたいのじゃろ?」
蝶「これはこれは……お主、存外、情熱的なのか?」
蝶「ふはは、冗談じゃ」
蝶「じゃが、お主の望みは本当にそんなことでよいのじゃな?」
蝶「ふむ……そうか……」
蝶「おっ、鳥が、枝の高い場所へ移動したぞ」
蝶「喋ろうとするでない、少し静かにしておれ……」
蝶「ほれ、よく見ておけ……」
蝶「どうやらワシの勝ちのようじゃな」
蝶「残念じゃったなお主よ」
蝶「ククク……いつもここで桜を見ておるからな」
蝶「鳥がどこからきてどこへ去っていくのかなんて朝飯前じゃ」
蝶「きっとあちら側に巣があるのじゃろ。今は餌場からの帰り、といった感じではないか?」
蝶「……何か言いたそうな顔をしておるな? 勝負に乗ったのはお主であろ?」
蝶「まぁ、対等な条件、ではなかったな」
蝶「そんなに剥れるでない。ちょっとした遊びじゃ。あ・そ・び」
蝶「クク……ういやつめ」
蝶「さて、ワシの願いをひとつ聞いてもらおうかの」
蝶「もしお主が、下らぬ願いをしたら、どうなっていたか想像に難いぞ……」
蝶「……とはいえ、お主の願いは『ワシのことが知りたかった』だけじゃからな」
蝶「じゃが、困ったのう、お主が聞き出そうとした願いと釣り合うものは思いつかぬ……」
蝶「うーむ……」
蝶「うむ、決めたぞ。お主よ、ワシの戯れに付き合え」