Track 5

『坊ちゃん、今週の宿題を一緒にやろう』

;ボイス位置:3 普通の会話 【結希】 「よし、坊ちゃん。そろそろ今週の宿題でもしようか」 【結希】 「宿題や課題は早いうちにやっておくに越したことは無いしね」 【結希】 「今はもうやってないけど、坊ちゃんと会う前は宿題が出た日のお昼休みに片付けていたよ」 ;ボイス位置:3 囁き 【結希】 「帰ってからだと、何かと"誘惑"も多いからね。ふふっ」 ;ボイス位置:3 普通の会話 【結希】 「まあ、そういった誘惑から逃れる為にも、お互いに監視し合って勉強するのが一番効率いいんだよね」 【結希】 「という訳でやろうと思うんだけど……嫌かな? はは、そうだよね。気持ちはわかるよ」 ;ボイス位置:3 囁き 【結希】 「でも、頑張ろう。頑張ったら"ご褒美"あげるからさ」 ;ボイス位置:3 普通の会話 【結希】 「うん。それじゃあ始めようか」 ;SE:鞄から教科書とノート、原稿用紙をテーブルに出す音 【結希】 「今週は授業でやった話の読書感想文だったっけ。読書感想文ねぇ……」 【結希】 「こういった宿題は、正解があるのか無いのか分からないから苦手なんだよね」 【結希】 「作文とかもさ、必ずしもこれが正しい、なんて事は無いから……何をどう書けばいいか分からなくなるんだよね」 【結希】 「まあ何はともあれ、これから片付けた方が良さそうだね」 ;SE:ペラペラと教科書をめくる音 【結希】 「あらすじから振り返ってみようか」 【結希】 「役人を辞め、詩人として有名になりたかった男。しかし才能は伸び悩んでしまい、奥さんや子供と生きる為にまた役人へと戻る。でも最後には、それも上手くいかなくて失踪。かつての友人と遭遇した時、彼は虎になってしまっていた……」 ;SE:ページをめくる音 【結希】 「そして、そこから人生を振り返る。というのが大まかな流れだね」 ;SE:ページを戻す音 【結希】 「虎、か。本来ならありえない話のはずなんだけど、どうしてだか現実にあった出来事のようにも思えるね」 【結希】 「他人事のようには思えないというか。人間は誰しもが、いつか獣になってしまう可能性があるんじゃないかって思ってしまうんだ」 【結希】 「彼のように、どうしようもなく人生が上手くいかなかった積み重ねで、耐えきれなくなって獣になってしまう者。特に理由もなく、ふとした瞬間にぷつりと理性の糸が切れてしまう者。たった一つの大きな出来事で、人である事を捨て去る者」 【結希】 「人の数だけ理由があるのかもしれないね」 【結希】 「さて、ぼくはこれを読書感想文にするとして……我が校の教師はこれを良しとするだろうか」 【結希】 「なんとなくこのままじゃ足りない気がするな。まあ、書いている内に何か思いつくかな」 ;SE:原稿用紙に文字を書いていく音 タイトル→名前→本文 【結希】 「(時折考えるように、ふぅん……、んーなどの息遣いをお願いします)」 【結希】 「ねえ坊ちゃん。例えばの話、なんだけど」 ;ボイス位置:3 囁き 【結希】 「ぼくが突然、がおー……って、虎になっちゃったらどうする? ふふっ」 ;ボイス位置:3 普通の会話 【結希】 「まあ、もし虎になったとしても、ぼくは坊ちゃんのお傍で仕えていたいんだけどさ」 【結希】 「あっ、餌は高級なものにしておくれよ? 出来ればスペアリブが良いかな。首輪は……そうだな、普通のネクタイだと難しいだろうから、蝶ネクタイみたいな感じで頼むよ」 【結希】 「ふふっ。一応これも書いておくか……」 ;SE:黙々と原稿用紙に書く音 【結希】 「んー……逆に坊ちゃんが虎になってしまったら、ぼくはどうしよう」 【結希】 「そのまま仕えるのが忠義なのか、それとも……」 (終わらせるのが忠義なのか、と考えていますが濁しています。なので『それとも』は少し暗めに) 【結希】 「この物語の虎が、まだ人語を話せる存在で良かった。そして、友に、詩を残せたのが彼の……数少ない救いのように思える」 【結希】 「ああ、そうか……ぼくは多分、きみを元の人間に戻そうとするんだろうね。戻るまで、人生をかけて」 【結希】 「それがぼくの坊ちゃんへの忠誠なんだ」 【結希】 「この話を知ることが出来て良かった。こうして、自分の在り方を考える機会を得たのだから」 ;SE:原稿用紙にササっと書いていく音 【結希】 「よし。読書感想文はこんな所かな」 【結希】 「坊ちゃんも終わったかい? じゃあ」 ;ボイス位置:3 囁き 【結希】 「ご褒美の時間にしなくちゃね」