Track 1

☆1(キスのみトラック)

 依頼に書かれていたのは……森の、この辺りでしたが……  ……あ。看板を立ててくださっていますね。 〝キケン! 魔物注意〟。  分かりやすくて助かります。  はい。  ここから数分歩いた辺りに、〝サソリトカゲ〟の巣があるそうです。  体に毒を持っているから、脅威度Cなのでしょう。  入念に下準備していったほうがよさそうです。  …………。  ……あの。そういうわけですので……  早速、お試しも兼ねて……強化魔法はいかがでしょうか?  はい。素早さをあげるのは、慣れていないと逆に動きづらくなるでしょうから……  腕力と防御力を強化する形で考えています。  よろしいでしょうか?  ……分かりましたっ。  で。では……  はい。もちろんです。 〝舌交(ぜつこう)魔法〟、使わせていただきます。  …………。  あ。す、すみませんっ。  まず、あなたがいいかどうかを確認すべきでしたね……!  き、キスをすることになるのですから……  キスが嫌だという場合もあるでしょうし……  ……その。どう、でしょうか?  キス、よろしいでしょうか?  ……ありがとうございますっ♪  ……〝でも〟?  なんでしょうか。  ……私のほう、ですか?  は。はい。それはもちろんです。  そもそも、〝そういう〟魔法なのですから……  そこに今さら躊躇はありません。  私の教会で、プリーストになったとき……誰かと舌を絡ませ合う覚悟はできています。  ……それと。その。  個人的なお話で、恐縮ですけど……  ……あなたは、とってもお優しそうですから。  そういう意味でも……嫌ではない、です。  でも、お気遣い、ありがとうございます。  私のことは、どうか気になさらず……  ベロチュー。しましょう。  では……  し、失礼、します。  ん……  ……す。すみません。  実際に、キスするのは初めてなので……  少し、緊張してしまって……  ……え?  はい。そうです。私、キスするのは初めてです……  正確には、〝人とキスするのは〟、ですが……。  うちの教会には、〝舌交魔法〟練習用のオートマタ……人形がありまして。  人形に、魔力に反応する機構があって……  その反応を見ながら、練習できるのです。  でも……実際に、人にかかるところを確認できないと、意味はありませんね。  ……そういう意味でも、あなたは、私のことを試してください。  では、改めて……  キス、させて、いただきます……  ん……  んちゅ……んちゅ……ちゅっ、ちゅう……ちゅう、ちゅう、ちゅう……ちゅう……ちゅ……  はぁ……  ん……  ……温かい、です。  こんな風に……なるんですね。  なんだか……頭が、ぼーっとします。  あなたは……嫌じゃなかったですか?  ……気持ちよかった?  そうですか。えへへ……  …………。  ……あ。  す、すみません。  これじゃ、魔法がかかりません。 〝舌交〟魔法なので……  ただのキスじゃなくて、ベロチュー……舌同士を交わらせなければいけないんです。  だから……お手数ですが……  ベロ、お借りしてもよろしいでしょうか?  ……ありがとうございます♪  では……口、開けてください……  ん……  んちゅ……んれろ……れろ……んれろ、んれろ……ちゅう……ちゅう、ちゅっ、ちゅう、ちゅう、れろ、れろ……  はぁ……  ん……  さっきは、温かくて、柔らかい感触だけだったけど……  ベロと、ベロを絡ませると……全然違います……  全身、ふわふわして……これ以外、考えられなくなりそうな……  ……え?  ま、魔法ですか?  あ……  す、すみませんっ。  魔力を込めるのを……すっかり忘れていました。  これじゃ、ただキスしただけです……うう。  今、魔力を込めます……  ……もう一度、べ、ベロチューしていただいても、よろしいでしょうか?  本当に、すみません……  神よ。この者にご加護を……  ん……  んちゅ……んちゅ、ちゅう、ちゅう……れろ、んれろ、んれろ、んれろ、れろ、れろ、ちゅう、ちゅっ、ちゅう、ちゅ……  はぁ……  ……い。いかが、でしょうか?  あまり、実感がない感じ……でしょうか。  ……念のため、もう何回かベロチューしておいたほうがいいかもしれません。  すみません……また、いいでしょうか?  ん……  んちゅ……んちゅう、ちゅう、ちゅう、れろ、れろ、れろ、れろ、んれろ、んれろ、んれろ、れろ、れろ、ちゅっ、ちゅう、ちゅう、んちゅ、んちゅ、ちゅ、ちゅう、ちゅう……  はぁ……  ……あ。体、だんだん熱くなってきましたか?  はい。それが正しい反応です。  徐々に、私の魔法が体に浸透してきて……熱になっているのです。  よかった。  ……やっぱり。弱めに浅くやるよりは……  思い切って、深く強めに絡ませたほうが、魔法の効きがいいみたいです。  すみません。念のため……もう一回だけ、ベロチューいいでしょうか?  ありがとうございます。  では……  ん……  んちゅ……ちゅ、ちゅう、ちゅう、れろ、れろ、れろ、れろ、れろ、れろ、れろ、れろ、んれろ、んれろ、んれろ、れろ、れろ、ちゅう、ちゅう、ちゅう……  この者に、聖なる力を……  強靭な肉体を、お与えください……  んちゅ……んちゅう、ちゅう、ちゅう、れろ、れろ、んれろ、んれろ、んれろ、れろ、れろ、ちゅう、ちゅっ、ちゅう、ちゅう、ちゅう、ちゅるる、ちゅう、ちゅう……  はぁ……。  ……改めて。いかがでしょうか? 〝気持ちよかった〟?  ……ふふ。嬉しいです。  ですが、お聞きしたかったのは……魔法のかかり方のほうです。ふふ。  おそらく……私の強化魔法が、まんべんなく体に行き渡ったのではないかと……  ……はい♪ よかったです。  念のため……実際に力が強くなったかどうか、確認していただいてもよろしいですか?  例えば……あちらの岩、持ち上げられますか?  ……大丈夫そうですね♪  ふぅ。ちゃんと効いて、安心しました♪  ……やっぱり、人相手が初めてだったので、本当は少し不安でした。ふふ。  はい?  ええ。ご安心ください。  この舌交魔法は……口から、体の中に直接働きかける魔法なので、効果時間が長いのが特徴なのです。  数分程度で切れたりすることはありません。  一時間近くは続くと思います。  ただ、早めに討伐に向かったほうがいいのは事実ですね。  早速、行きましょう♪  はい。もちろん、私もご一緒します。  先ほども申しましたが、多少でしたら、攻撃魔法も使えますので……  戦闘中、後衛でサポートさせていただきます。  おそらく、足止めくらいはできるのではないかと。  ……あ。攻撃魔法は……キスは関係なく、普通に使うことができますので、ご安心ください。ふふ。  はいっ。  頑張りましょうねっ。  …………。  ……キス。  私も……  気持ちよかったな……。