Track 2

機械生命体少女のアブダクション耳かき

ア・・・エ・・・お・・・うん、言語の分析を完了。 一般的に使用される単語以外はマダ解りませんが、会話に支障は無いはず。 オハヨウゴザイマス。 この惑星の知性体のオス・・・ アナタの体を我々の調査の為に使用する。 我々は・・・ん、我々の星の名をこの言語で発音することができない。 心拍数の上昇を確認。 アナタは動揺しているのでしょうか? 我々のこの金属でできた体が不思議デスカ? 我々はこの星でいう「機械」が発達した知性体、 つまり「宇宙人」にあたる存在です。 外宇宙より地球というこの惑星にたどり着き、 最初の研究対象としてアナタを選んだ。 協力してくれさえすれば明日の朝までには元の場所に送り届けることを誓います。 眠っている間にアナタの体をスキャンしました。 地球人類の体は我々とは全く違う。 特に気になったのがここ。 どうして体の表面の垢は洗浄されているのに、 この穴にだけこんなに残しているのかが不明。 地球人の聴覚器官・・・耳の穴の垢は重要なものなのでしょうか? これも検体として母星でより詳しい分析をしてもらう必要がある。 研究の為、耳の垢を採取させてもらう。 我々はあなたたちより高度な技術を有しています。 決して皮膚や粘膜に痛みを与えることはない。 採取の対象は2箇所。 一度に採取できればよいのですが この調査船に乗っているのはワタシ一体だけ。 貴重なサンプルを破損しないよう、慎重に作業を進めなければ。 片方ずつ作業をしていくこととする。 まずはこちらの穴から採取していきます。 指先パーツのライトを起動。 内部の詳細、船のスキャナーでは見きれなかった部分を確認する。 わずかに黄色の混じった垢が皮膚に張り付く様に付着しています。 垢を押し込まないように採取器具を挿入する。 これは地球人の皮膚の硬度を計測し、 それにあわせて調整をした耳垢を剥がすための器具。 皮膚の表面だけを傷付けることなく擦ることができる。 このように・・・・・・船から転送されたデータに従い・・・垢と皮膚を分離する。 すごい、とはどういう意味でしょう。 予測開始・・・・・・・・・完了。 ああ、理解しました。 アナタ達は端末を使わなければデータをやりとりできないのですね。 ここから先はより精密な作業が必要となる。 パーツをワタシの指先に取り付け、視覚データを参照しつつ進めます。 ん・・・・・・これが鼓膜ですか。 触れないよう注意しなければ。 地球人の構造は我々とは全く違う。 地球では、我々のような存在は「女性型ロボット」と呼ばれるらしいですね。 「映画」という文化データで見た。 文化データはとても・・・何と言えばいいのでしょう、 アナタに対する興味深さとはまた違った興味があります。 我々の星にはああいったものは無い。 他の星にも近いものはあったが、地球は特に文化データが豊かな印象を受ける。 もしや、耳の垢がその発展の鍵・・・? ・・・アナタにも解らないのですか。 自分自身のことを知らないのですね、それも不可思議。 ワタシは自身の構造や生み出された目的を把握しているのに。 無事、皮膚と垢を離すことに成功。 次はこの器具で垢を穴の外に出していきます。 的確な強さで・・・風を送り・・・剥ぎ取った垢を外に出して回収する。 吹き飛ばしてしまって問題ないか? 問題ありません。 船の回収装置が一つ一つを専用のカプセルで包み、保管します。 もう少し・・・・・・調査項目は大量にあるので・・・検体、 つまりあなたの耳垢が大量に必要。 これでもう残っているものはありません。 小さな穴なのに採取する深さによって質が変わるとは、 やはりこの耳の垢というのは非常に興味深い。 反対側からも取らせてもらいます。 最初に状況を確認する。 指先のパーツからライトとカメラを起動、内部を映します。 溜まり方も左右で違うとは、やはりこれは何か理由があってのことでしょう。 耳の垢自体が我々にはないものです。 知らなければならないことはたくさんある。 調査を続行する。 こちらにも器具を挿入します。 浅い部分から作業を進めていく・・・対象の垢にあわせて・・・・・・ 剥がしとり・・・この垢の場合は削り取る・・・・・・。 ん・・・どうしました? 今の箇所を触ると体が動いてしまうのですか? 聴覚器官の中にそういった箇所が・・・これも調査項目に追加する。 動いた際に怪我をすることがないよう、力の加減を調節します。 丁寧にするのは当然です。 地球人類は我々のようにパーツの交換での修理ができない。 それも理由の一つですが、 何よりもアナタは突然のアブダクション・・・ より一般的とされる単語に変換・・・招待を快く受け入れてくれた。 ワタシはアナタに敬意を示し、尊重し、傷つけず完全な状態で帰すことを誓った。 宇宙には相手の文明を理解せず、破壊と資源の強奪をするだけの者もいますが、 我々は彼らと違います。 この奥は深く、暗い。 ワタシの指先パーツによって処理を進める。 ん・・・産毛に垢が絡まっている箇所を・・・・・・細かく取っていく。 視覚データとの連携により・・・・・・確実に・・・。 余程長期間かけて堆積してきたのでしょうか。 違うのですか? ・・・なんと、興味深いことを聞いた。 この垢はほんの2周間程度で溜まってしまうのですか。 それはアナタという個体が特別なのか、地球人類がみんなそうなのか・・・。 なるほど、個人の体質・・・ 個体性能の差とはまた違う意味らしいが、ワタシには完全な理解ができない。 地球の調査を進める中で知識を獲得しなければ。 ん・・・鼓膜の前にやや大型の固まりを発見。 これを慎重に・・・・・・器具を操作し、はずしていく・・・。 あと0.3ミリ・・・0.2ミリ・・・0.1ミリ・・・取れた。 送風により取り外した垢を穴から出していきます。 装置を起動・・・・・・。 ん・・・風が当たる感触が心地いい? 確かに不快や緊張を示す数字は出ていませんが、 地球人はこの刺激を快楽と感じるのですか? どうしたのでしょうか? 体温の上昇が観測された。 ワタシの声で快楽という単語を聞くのは・・・ 恥ずかしい、という感情を呼び起こすのですね。 我々には恥ずかしいと思考するプログラムが無いので・・・ゴメンナサイ。 謝罪の言葉を述べる必要はないのですか? よく解りません、何故アナタが謝るのでしょう。 理解を深めれば知ることができるのでしょうか・・・。 ・・・・・・完了。 全ての検体をカプセルに保管しました。 これを母星に向けて転送し、この船では出来ない高いレベルの検査を行う。 ワタシはまだこの惑星を調査する。 母星に帰還するのは全てを調べてから。 地球のこと、地球人類のこと、そしてアナタのこと。 可能ならばこれからも調査の手伝いをお願いしたい。 ・・・ん、感謝する。 この場合は・・・アリガトウゴザイマス、ですね。 疲れたのですか? 解りました、少し休んでいればいい。 その間にアナタを戻すための処理をしておきます。