「姦通」
【セシリア】
「勇者様……勇者さまー……っ♪」
お尻を振るセシリア。
口の端には精液が垂れていた。
【セシリア】
「一緒に……一緒にっ、子作りをしませんかあ……?」
【男】
「こ、こづくり……?」
耳を疑った。
【セシリア】
「はい……♪ 子作りですっ」
【男】
「随分とストレートじゃないか」
【セシリア】
「ふふっ♪ んふ、くすくすっ」
淫靡に笑っている。
【セシリア】
「んもう、うずうずして仕方ないんですぅー……。お腹の奥がキュン
キュンしてぇ……っ、勇者様にノックして欲しいんですうー……」
言うや否や、いそいそと下着を下ろし始める。
【セシリア】
「んっ、しょ……。……ほら、下着も脱ぎましたぁ、くすっ♪」
【セシリア】
「どうですかあ? 見えますか? ここ……、ぐちゅぐちゅに濡れそ
ぼっているの……解りますかあ?」
【セシリア】
「ふふっ♪ ……こんなところを見せるのは、勇者様だけですよお…
…?」
【セシリア】
「……殿方には初めて見せる場所ですから、っ……んんっ、きんちょ
――……ふふっ♪ 興奮っ、……しますねっ」
膣口から一粒の愛液が糸を引いて、落ちた。
【セシリア】
「っ、……ほらぁ……どうぞー?」
壁に片手を付くセシリアは、もう片方の手でお尻を掴み、膣内を露
出させる。
【セシリア】
「……準備は周到ですよお……? きっと、奥のほうまで柔らかくな
っていますからぁ……」
【セシリア】
「勇者様のを喜んで迎え入れられます……っ♪」
胸が高鳴るような妖艶な笑みを浮かべる。
情欲をそそるのには十二分だった。
【セシリア】
「だから……、んっ……はぁ……、はやくぅ……どうぞー……?」
【セシリア】
「私は、壁に手を置いていますからぁ……後ろから、乱暴に……突い
てください……っ♪」
【男】
「……あぁ」
滅茶苦茶にしてやろう。
満足するまで、壊してやるさ。
導かれるままに、先端をセシリアの入り口に添える。
【セシリア】
「ん、んんっ……♪ はぁぁ……してくれるん、ですね……? やっ
と……やっと、勇者様と、結ばれ――」
ちゅく……。
【セシリア】
「んっ、ん……っ! んんっ!」
【セシリア】
「っ、ん……っ! ~~~っっ、――ぁぁぁぁああっ!!」
愛液の手助けを借りて、きつい膣内を抉り進む。
抵抗は強くても、力を加えればどうってことはない。
あっという間に子宮口に迫っていった。
【セシリア】
「んっ、くはぁ……っ! っ、ぅ……っ、ふっ……は、ぁ……ぁぁ」
セシリアは背中を仰け反らせ、上擦った声を上げた。
【セシリア】
「きま、した……っ! 奥っ、ずんって……ぁっ♪」
腰がぶつかる。
【セシリア】
「っ、ぁ……やっと……です、ね……。ぅ、はぁ……今まで、貞節を
守ってきた理由が……やっとっ、達成できました……っ」
【セシリア】
「あは……っ♪ 勇者様……、勇者様ぁ……♪」
【セシリア】
「もっと……もっとぉ……っ。もっと深くまでっ、奥……までぇ……」
【セシリア】
「お好きなように、してください……っ! 滅茶苦茶にして、構いま
せん、からあ……っ」
【男】
「……これが……」
ゆっくり腰を引いていく。
膣内の襞が逸物を搾るように絡みつく。
【男】
「――望みかっ!」
【セシリア】
「っ、んゃぁっ!」
叩きつけるように突き入れる。
嬌声が部屋に響いた。
同様にして、粘膜がぶつかり合う水音が耳を犯す。
【セシリア】
「んっ、っ! ん、ぁ……っ、ぅあぁ……っ、ん……ふあぁ……っ!」
【セシリア】
「ゆうっ、しゃっ……さまぁ……ッ♪ ゆーしゃさまっ、んっ! 勇
しゃっ、さっ……っ、んんっ!」
今まで勇者の誘いをのらりくらりとかわし続けていたセシリアの蜜
壺。
操を守り続けていたセシリアの中は、格別な味だった。
【セシリア】
「っ、ぅぁ……、ん……はぁぁ……っ! こん、なっ……んん!」
【セシリア】
「お……っ、おっき――んん~~っ!! んゃっ、っ……おっきぃな
んてぇぇ……はぅっ!」
最奥を突かれたことで、セシリアが息を呑む。
【セシリア】
「んっ、ゃ……っ! ふっ、ぅあッ……! ぇぐっ、抉るみたい、に
ぃっ、ぁっ! ほっ、本当にっ……遠慮なしで……~~~~ッ!」
喋る余裕が出てきたところを狙って、奥をつつくようにピストンを
する。
腰のぶつかる音が耳に心地いい。
【セシリア】
「ふぁぁ……っ、ぁ……奥っ、ぅぅ……っ! とんっとんってするの
……っ! ぁあっ……!」
【セシリア】
「はぅ……っ、びりびりしてぇ……、ぅ……きもちぃ……ですよぉ…
…、んゃ……っ!」
ちゅくちゅくと粘膜が擦れあう音が聞こえる。
その合間に響く、腰を打ち付けあう軽快な音。
【セシリア】
「ぅ、ぁ……っ♪ きもちーです……っ♪ 勇者様との、子作りぃ…
…、きもちっ、ぃ……っ」
きつく閉まる入り口の奥に、ねぶるような襞の動きがあった。
どこまで突き入れても、セシリアは感嘆の息を吐き、俺は底知れぬ
快感を覚えていた。
【セシリア】
「はぁ……はぁ、……ね、勇者様ぁ?」
【男】
「ん……?」
【セシリア】
「さっき……っ、……カロを帰したのは、もしかしてぇ……」
卑しい笑みを浮かべる。
【セシリア】
「こういうことになるかもしれないとぉ……、先読みしていたからで
すかあ?」
膣内が逸物を掴まえるように動く。
【セシリア】
「確かに、カロに……こんな姿は、見せられませんからね……。夜の
営みを……っ」
【セシリア】
「カロには、もうちょっと早いかなぁと、思います、し……ぅんっ♪」
【男】
「大人ぶった言い草じゃないか」
【セシリア】
「んぁっ、ん……もぉ、私は大人ですよぉ……? だからこうしてぇ
……勇者様のを、咥え込んでいるんですからぁ……っ」
【セシリア】
「ん、ぅあ……っ! ふぁ……っ、こんなに……おっきぃーの……、
まだっ……カロには、無理――んぅっ! んゃぁっ!」
少し角度を変えて擦れば簡単に声を上げる。
初めての行為に、膣全体が敏感になっているみたいだ。
【セシリア】
「ふぅ……っ、ふぅっ、ふっ……――んっ!?」
息を吐いて呼吸を整えようとしているところを、乱暴な腰の動きで
邪魔をする。
声に促されるようにして、膣内が流動する。
【セシリア】
「それっ、それぇっ……♪ らめ、だめですぅ……っ! 喋れな……
んぅっ!」
【男】
「喋ってると舌を噛むぞ?」
【セシリア】
「はぁ……、はぁ……――はぅっ! んんっ! んっ……そんなっ、
心遣いをしてぇ……っ」
【セシリア】
「やさしく、してくださっているのにっ、んぅ! 腰っ! つよぃ…
…ですぅ……っ!」
【セシリア】
「あぁっ! んぅ……っ! ……どちらかにしてくださいよぉ……っ」
【男】
「どっちとは?」
【セシリア】
「優しくしてくださるならぁ……やさしく……んっ!」
【セシリア】
「無理やり犯すようにしてくださるならぁ……もっと、きつい言葉で
……っ! なじって……んっ」
【セシリア】
「でないとっ……わけが解らなくなって……っ! 壊れちゃいますぅ
……っん! ふぁあぁ……」
【男】
「ふうん」
俺は口をセシリアの耳の傍に近づけた。
そっと呟く。
【男】
「愛してるぞ、セシリア」
【セシリア】
「え? う、あ……っ」
セシリアの背中が震えた。
【セシリア】
「あいして、る……? ――っ! 勇者様ぁ、それは、ほんと――」
セシリアが蕩けた表情で振り向きかけたところで、ここ一番の力の
ピストンを送り込む。
【セシリア】
「――っぅああ! あッ! んあっ! やっ! んゃっ、っ、っっぁ
ぁああっ!!」
膝をがくがくと震わせながら喘ぐ。
セシリアの首は据わる力が抜けたように、自重に従って俯く。
救いを求めるように壁に添えた両手を動かす。
【セシリア】
「いきなりっ、激――!! んん……っ! ゃぁ……っ!」
【セシリア】
「~~~~っっ! だめですぅ……っ!」
ゆっくりと顔を上げたセシリアは涙目になっていた。
【セシリア】
「優しいことば、掛けてから……っ、激しくしちゃ、だめぇ……ゃぁ
っ!」
【男】
「俺は本当のことしか言わない」
【セシリア】
「……本当の、こと……っ?」
ほとんど涙声だった。
【男】
「それに……今だからこそ言える言葉ってのもある」
【セシリア】
「っ、はぁ……今だからこそ、言えることば……て、……ぁっ、それ
が……さっきの……っ」
【男】
「……俺は、セシリアが好きだ」
【セシリア】
「あっ、またぁ……っ♪」
膣内が嬉しそうに痙攣しながら収縮する。
【男】
「本当に……、愛してる」
【セシリア】
「……ぅんっ、うんっ、うんっ! 私もっ、わたしもっ……! 勇者
様のこと……だいすきぃ……」
セシリアが言い終える少し前を見計らう。
【セシリア】
「心からっ……愛していま――」
両手を腰に添え、膣内をこれでもかと蹂躙する。
激しい肉のぶつかる音がこだまする。
【セシリア】
「ぅ、っ、ぁ、ぁっ、ぁっ、あっ、あッ、ぅあッ! ぁっ、ぁぁあぁ
ああっっっ♪♪」
心から快感に染まったような嬌声だった。
【男】
「なんだ、嫌と言いながら気持ちよさそうじゃないか」
【セシリア】
「ぅあッ、ぅ……くはぁ……っ! っ……だって、……だってぇ……」
【セシリア】
「きもち、ぃー……からぁ……♪ きもちよすぎて……ぅ、んんっ!」
【セシリア】
「……きもちよすぎるから、やめてくらはいって言っへ……ひゃぅっ!」
舌がうまく回らない。
【セシリア】
「ゃっ、ゃぁっ、ゃあッ! もうらめっもうらめっ、もうだめれす
っ!!」
歯を食いしばりながらどうにか紡いだ言葉も、呂律の回らないもの
になってしまっている。
蜜壺から溢れた愛液は臀部まで広がり、太腿に幾重にも垂れてしま
っていた。
セシリアの腰から下は、どこを触れても愛液でぬるりと滑る。
【セシリア】
「ゆーしゃさま……っ! ゆーしゃっ、ひゃまっ! ゆぅ……、っ♪
ひゃっ、ひゃま……っ♪♪」
初々しい膣の様子も、今では俺の逸物を柔順に包み込むまでになっ
た。
ぶつかり合う腰の衝撃が下腹部を通じて射精を促す。
せり上がってきた精液に反応するように、亀頭が膨らんでいく。
【セシリア】
「ゃぅんっ、ん、ゅ……っ! にゃっ……っ! またぁ……っ、また
中れ……っ、おっき……ぅぅあっっ!」
陰茎の変化にセシリアの膣がうねりだす。
入り口をきつく締め、射精を催促するように膣内の柔肉が逸物を搾
り始める。
鈴口が開いていくのを感じた。
そろそろ限界が見えてきた。
【男】
「……っ、セシリア……っ」
さらに激しく子宮口を叩いていく。
【セシリア】
「ゃ、ゃ、ゃっ、ゃぁっ! そんっ、なっ……っぅぁ! ぁ……んゅ
っ! んぅぁ……っっ!」
【男】
「このままっ……いいか……?」
セシリアは張子の虎のように首を振り続けた。
【セシリア】
「ぅ、っ……! んっ、ぅんっ、うんっ! せーえき、ください……
っ! わたしっ、……わたし……っ!」
【セシリア】
「……勇者様の赤ちゃん……ほしいです……っ」
【男】
「な――」
――途端。
びゅるるるッ!! びゅくっ! びゅっ、びゅぅっ!
【セシリア】
「んっんん~~~~っっ! んゃっ! ぁっ、ぅぁぁぁああぁああっ
っ!!!」
吐き出された熱に呼応するように、セシリアが絶頂に達する。
【セシリア】
「ぁっ……! ぅ! ぁっ! ぁっ、ふぁぁ……、んっ!」
射精の余韻に浸るようにリズミカルに腰を打ち付ける。
同じく絶頂の余韻に浸るセシリアが、叩きつけられる衝撃に甘い声
を漏らした。
【セシリア】
「んっ! ……ふぅぁ……はぁぁ……はぁ…………は――んんッ!?」
最後の一滴まで膣奥の子宮口まで注ぎ込むと、押し付けていた腰を
軽く引いて、最後の一突きを楽しむ。
【セシリア】
「はぁ……はぁ……、ふぅ……、……くすっ」
【セシリア】
「最後の一滴まで……ちゃぁんと、注ぎ込みましたかあ……?」
【セシリア】
「残っている精液があるなら、きちんと出し切ってくださいよぉ……?
ほら、腰……動かして差し上げますから……んっ」
粘膜が擦れ合い、控え目な水音が漏れ聞こえる。
【男】
「もう出し切った。……本当だ」
【セシリア】
「……? 本当に出し切ったのですかぁ……? 嘘です……。こぉん
なに硬いままなのですから……」
後ろ手に逸物を握り、硬度を確かめる。
【セシリア】
「まだ奥のほうに残っているはずです……。きちんと出し切ってくだ
さいねぇ……? くすくすっ♪」
【セシリア】
「勇者様の子を……きちんと、授かりたいですからぁ……、ね? お
願いします……」
【セシリア】
「勇者様……ゆうしゃ……さ――」
プツッと糸の切れた人形のようにセシリアが崩れた。
【男】
「おっと」
繋がったままという距離もあり、さっとセシリアを抱え込んだ。
【セシリア】
「……すぅ……すぅ……、ん……んん……」
眠っていた。
キノコの副作用かもしれない。
カロも、家に届けた頃には背中の後ろで静かな寝息を奏でていた。
行為の疲れもたたって、一気に眠気が襲ってきたのだろう。
【セシリア】
「ふぅ……、すぅ……すぅ……すぅ……」
【男】
「ふむ……」
セシリアの言う通り、俺のモノは硬度を保ったままであったが……。
ここはセシリアを労わってやるとするか。
【男】
「おやすみ。セシリア」
夜は更けていく。
…
……
…
朝になった。
階下に下りると、すでに起きていたセシリアが食器を並べていた。
【セシリア】
「あら、おはようございます」
朗らかに挨拶をする。
【セシリア】
「今日は早起きなのですね」
【男】
「まあ……な」
【セシリア】
「? 歯切れが悪いです」
そりゃそうだろう。
昨日の今日だぞ? 普通でいるほうが難しい。
……とは、流石に言えない。
【セシリア】
「目覚ましに、顔を洗ってきてはいかがですか? 深夜の冷気で、水
もきっと冷え冷えでしょうから」
一眠りして、キノコの作用は綺麗さっぱり抜け切ったようだ。
清く、正しく、美しくあらんとする僧侶。
いつものセシリアがそこにはいる。
まるで、昨夜のことが嘘のような普段通りっぷりだ。
【男】
「なあ、セシリア」
堪らず訊いた。
【セシリア】
「え? ……はい、なんでしょうか」
【男】
「……昨日のことは、覚えているか」
【セシリア】
「ぁ……。昨日のこと……ですか」
セシリアは困ったようにはにかむ。
【セシリア】
「ぅぅ……それが、記憶が昨晩からすっかり無くなってしまっていて」
【男】
「記憶が?」
【セシリア】
「ん……。昼間にカロと一緒に、貴方のための食事を作っていた……
ということまでは思い出せるのですが……」
【セシリア】
「カロの入れた“白いキノコ”を試食してから、意識がぼんやりとし
て……」
二つ瞬いて、続けた。
【セシリア】
「それからの記憶が、全くないのです」
【男】
「……そうか」
これはこれは……。
そんなとんでもない副作用まであるのか。
【セシリア】
「たぶん、キノコに何か問題があったのだろうと予測して、台所に残
っていた鍋のキノコを調べてみました」
【セシリア】
「すると、あのキノコには『混乱作用』があることが解ったのです」
【セシリア】
「……きっと、これが原因です」
そうだ。それが原因だ。
【セシリア】
「あの、昨晩の私は……もしかして、とんでもなく失礼なことを……?」
【男】
「あぁ、そうだな」
タガが外れていた。
内なる力が解放されたみたいな傍若無人っぷりだった。
【セシリア】
「うぅ……! やっぱり……っ!」
顔を赤くする。
【セシリア】
「んんぅ……。あの、昨日のことは……忘れてください」
【セシリア】
「私が知らない私のことを、貴方が憶えているのは、何となく厭わし
いですから……。お願いしますっ」
【男】
「まぁ、それくらいなら」
俺の返事に、セシリアは安堵の色を見せる。
【セシリア】
「あ……。ありがとうございます。本当にありがとうございますっ」
【男】
「しかし、本当に昨日のことを憶えていないのか?」
【セシリア】
「え? あ……あぁ、はい……。昨日のことは、とにかくもうさっぱ
りで……」
そう答えながら、セシリアは速いテンポで瞬きを繰り返す。
【セシリア】
「あのキノコを食べて『混乱状態』に陥っているときのことは、憶え
ていないのです。副作用とでも言いましょうか」
【セシリア】
「『混乱状態』は自我を崩壊する寸前まで持っていくので、きっと精
神的負荷が掛かり、記憶を抹消するのではないでしょうか」
【カロ】
「――でもカロは昨日のことははっきり憶えてるよ?」
テーブルの下からカロが顔を出す。
【セシリア】
「カロ!! あなたっ、帰ったんじゃなかったの!?」
【カロ】
「んふふっ! セシリアおねーちゃんがそわそわしてるから、気にな
ったとです」
【セシリア】
「うぅ……それっぽいのが台無しじゃないですかっ……」
俺の聞こえないような声でカロに抗議する。
【男】
「……本当に憶えていないのか?」
【セシリア】
「えっ? あ、……えっと。ですから私は……昨日ことは……一つも」
瞬きの回数が目に見えて増えていく。
視点もあらぬ方向に向いていた。
【カロ】
「カロは憶えてるよ」
【セシリア】
「カロ!」
【カロ】
「ぬっふふ、聞いて驚くがいいぞ」
得意げな顔で俺を見つめる。
【カロ】
「昨日はね、セシリアおねーちゃんが『勇者さまーっ!』って言って
旅人のお兄さんに抱き付いてたんだよー」
【セシリア】
「――っ!! それはカロだって――!!」
【カロ】
「ほら」
【セシリア】
「あ」
【カロ】
「憶えてるでしょ?」
【セシリア】
「ぁ……それは……その……」
声にならない声で弁解しようとするセシリア。
【カロ】
「それでね、さっきカロがお肉届けに来たらね、セシリアおねーちゃ
んがね」
【カロ】
「『昨日凄いことがあったの! とんでもないことしちゃったの!
話したいけど、カロにはまだ早いから~』って――」
【セシリア】
「――っ! 出ていきなさーーーーい!!」
カロは追い出された。
【男】
「……」
【セシリア】
「……ぅ、ぅぅ」
ばつが悪そうにして、頬を染める。
俯き加減に視点を彷徨わせ、ちらりとこちらを見遣れば、さっとず
らす。
裾を握っていた手がそわそわしていた。
【セシリア】
「…………ぁ、あのっ」
【男】
「まあ、なんだ」
ここは場を和ませよう。
【男】
「……可愛かったぞ」
【セシリア】
「――ッ!? か、かわ、っ、可愛かったとか、そんなお話じゃあり
ません!!」
怒らせてしまった。
【セシリア】
「い、いいですかっ。さっき貴方は『昨日のことは忘れる』って仰い
ました! 仰いましたからね!?」
【セシリア】
「ですから……っ、もうこのお話は終わりですっ! 金輪際、お話し
ないでくださいっ!!」
【セシリア】
「解りましたかっ?!」
涙声で勧告する。
なんか可哀想に思えてきたな。
【男】
「あぁ、解ったわかった」
【セシリア】
「ぁぁっ……、もう……最悪です……」
振り絞ったような声が、静かに零れ落ちた。