Track 3

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■03 ……タイミングが悪いことは良くある。 今日、一緒に帰ってくれるはずだった友達は、急用ができて駄目になってしまった。 だからといって、学校まで迎えに来てもらうことはできない。 せめて、お母さんにだけは話そうか。 でも、話した所で毎日学校へ送り迎えしてもらうことは無理。 電車の時間を変えてみたこともあったけど、あまり効果はなかったし……どうして。 あぁ、どうしてこの痴漢は、いつも的確に私の乗る電車や時間を把握しているのか……もしかしたらストーカーなのかもしれない。 けれど、ただの引っ込み思案な女子でしかない私に? 引っ込み思案で声を出さないから痴漢をしているのかもしれない。 だとすればやっぱり、声を出すのがいいんだけど……あ、あぁ……ごくんっ。 やっぱり無理だわ……私には無理なこと。 だからほら、またこの人は私のお尻をさわりに来る。 もうスカートをめくるのにも慣れたのか、直接ショーツに触れてくる。 痴漢の大きな手が私のお尻を掴んで、揉み始める……んんっ。 んはぁ、はぁ。今日もねっとりとした手の感触。 指先がまるで生きているみたいにお尻を這い回る。 人差し指が、中指が、薬指が、小指が、もちろん親指も、私のお尻を這いずり回る。 怖い、気持ち悪い、そればかりが心と体に響き続ける。 今日は友達がいないから、まだ20分以上もこの感覚にさいなまれ続けなければならない……あれ? 手が離れていくのは何故? 終わりなのかも、そう喜んだのも束の間……痴漢の手がスカートの中を抜け出し、お腹をさわり始めた。 脇腹を、お腹を、そして……あぁそして、遠慮なく胸に到達する……オッパイに。 制服の上からだけど、確かに今、私は胸をさわられている。 まだ誰にもさわらせたことのないささやかな胸……そう、私はクラスの女子の中でもバストサイズが小さな方。ささやかな方。 だけどちゃんと膨らみ始めているし、ブラジャーだってしてる。 まだ飾り物みたいなブラだけど、お母さんに買ってもらったリボンが自慢の可愛いブラジャーなの。とっても可愛いのよ。 きっとこの人は、制服の中にも手を入れてくる。 そしてショーツと同じように、ブラジャーも揉み始めるんだわ……いいえ、そこに隠されている私のささやかな胸を。小さな乳房を……。 ごくんっ……さすがにまだ恐る恐るさわっている感じがする。 スカートの上からお尻を撫でていた頃と同じ様子……でもすぐに堂々と揉み始めると思う。 ほら、力が込められて……あぁ。 はぁはぁ、んっ、んん! お尻ほど悪寒はない気がするけど、不快感は胸の上かもしれない。 膨らみかけの胸は強く押されるとズキッとするし、何より乳房は女子の象徴なんだから……。 痴漢なんかにさわらせていい筈がない。 だから私は声を上げて、この人を捕まえてもらわないといけない……いけないのだけれど、どうしても声は出てこない……もっと勇気があれば。 誰かに気付いてもらいたい、助けてもらいたい……そう思っても顔を上げることさえ怖い。 もしこの姿を誰かに見られたらと思うと、恥ずかしくて何もできないの……意気地なしの私。