02
はーい、いらっしゃーい!
グッドタイミングよ。
もうすぐグラタンもできるから……あら、ありがとう。
それじゃこれは、食後にいただきましょうね。
でも、わざわざ良かったのに……。
だって、就職したてでお金もないだろうと思って、ご飯食べさせてあげようと思ったのに。
お土産なんて買わせちゃったら本末転倒だわ……うぅん、もちろんありがたくいただくわよ。
えっ、あの店のモンブラン!?
ホントに?
いや~っ、私大好物なのよ~♪
……あ、あらそうだったっけ?
そんな昔のことまで覚えててくれたのね、嬉しいわ。
あ……できたできた。
さぁ、いただきましょ?
私もお腹ぺこぺこ……こんなに真面目に料理したの久しぶりだから疲れちゃったわ。
このグラタンだって、ホワイトソースからちゃんと作ったんだからね?
いつもは缶詰……うぅん。
そもそも手の込んだ料理なんてしないわね。
あの人も外食が多いし、あとは出来合いのお弁当……はいはい、たくさん食べて?
は~い、いただきま~っす♪
んぁあ~、モンブラン美味しかった~♪
いくつになっても、ケーキは別腹。
乙女の胃袋に限界はないのよ!
……い、いいでしょ?
心はまだまだ乙女っていうことで……あはは。
はい、ごちそうさまでした。
あぁ、珈琲もう一杯飲む?
そう?
……でも、お酒にはまだ早いわよ?
あはは、冗談冗談……ん?
そうねぇ、どうせあの人は帰ってこないし……。
さすがに作り過ぎちゃったから、いっぱい残ってるものね。
これをお酒のアテにすれば、夜は楽ちん……あぁ駄目駄目、そういう横着ばっかりするから、どんどん女子力が下がって……。
え?
えぇ、別に構わないけど……どうせ何もすることなんてないし。
でも、君はいいの?
友達と遊びに行くとか……ま、それもそうね。
それじゃどうする?
映画でも見ましょうか。
私の話?
仕事のことで、何か聞きたいことがあるの?
……プライベート?
な、なぁに?
別に特に話すことなんてないわよ?
……この家?
うぅん、借家よ?
あぁ、そうねぇ。
でもどうかしら……家を買うために仕事漬けっていうワケでもないと思うわ。
そもそも、あまり物に執着しない人だし。
単に仕事が楽しくて働いてるだけだと思う……うん、そうねぇ。
亭主元気で留守がいい、とは言うものの……あんまり家庭を顧みなさすぎるのはどうかと思うのよね。
ま、まぁ私だってまだ仕事してるんだから、人のことは言えないかもしれないけど。
……でも、家にいてもすることがないから仕事に出てるっていうのはあるわよね。
あの人は二日に一回くらいしか帰って来ないし、出張に出れば何日も帰らない日だって……ふぅ~~。
え?
そうね、それは寂しいけど……な、何?
あぁ……ふふっ、そうね。
君は彼女や奥さんに、こんな寂しい思いをさせないように……は?
私が何?
……え、えぇ!?
ちょっ……。
馬鹿ね、いきなり何言い出すの……あははっ、んもうっ、からかわないでよね?
まったく口先ばっかり……え?
本気って……え?
あ、あぁもう、馬鹿ね。
もちろん、私も好きよ?
好きに決まってるじゃ……ちょっ!
待って待って!?
じょ、冗談にしてもほどが……あっ、ちょっと待ってってば……落ちっ、落ち着いて?
分かった、分かったから……あぁもう!
分かったから落ち着きなさい!
……っぷは~~、まったくもう。
何言ってるのよ……冗談じゃないならイイっていうわけじゃ……ほ、本気で言えばいいわけじゃないでしょ?
だって。
わ、私はほら、人妻だし?
それに……年の差だって……あぁもう、それは分かったってば。
ありがとう、嬉しいわ、嬉しい、けど……ごくんっ……き、聞かなかったことに、しておくね。