Track 3

デトックス

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【03.デトックス】 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ここは、とっても深ーいところにある、あなた自身の意識の中。 アルコールの力を借りて、こんなに深いところまで来てしまいましたね。 柔らかくほわっと温かで、穏やかな空気。 その中で、あなたはリラックスした体をゆったり横たえている。 ゆっくりと上下する胸。 すうすうと、規則正しい息。 とても気持ちよさそう。 ねえ、体を右か左、どちらかに向けて。 あなたの楽な方でいいですよ。 体を動かしたとしても、催眠や暗示が解かれることはないから安心して。 人は寝ている間でも自然に寝返りを打つでしょ。 かといって、眠りから覚めることはない。 それと同じこと。 私が3つ数える間に。 いきますよ。 1、2、3、 出来ましたか。うん、そうそう。 じゃ、私はあなたの正面に回って……よいしょ……。 横を向いた正面に、私の存在。 あたたかな温もりが、すぐそばにあるのを感じる。 こっち、きて。 抱きしめてあげる。 私に近づいて。もっと、近づいて。 温もりがぐんと近づいて、体が密着しているのを感じる。 私の腕が、ゆっくりとあなたの頭を抱きしめる。 私の指先が、あなたの肩にそっと添えられる。 頭を私の腕に預けて、あなたはますます、体から力が抜けていく。 あなたと、私。 お互いの体がくっついて、あたたかい。 呼吸は穏やか。 鼓動も、ゆるやか。 今のあなたは、私の腕の中で、ゆったりとくつろいでいる。 でも、もっと、心までくつろぎたい……ですよね? ……うん、いいですよ。 ぎゅっと、抱きしめられる感触。 額と額が、こつんとぶつかる。 鼻先同士が、そっと触れる。 そして、顔にかかる、吐息。 あったかいね。 私の体温と、あなたの体温。 あたたかさの波紋が広がって、重なって、しあわせ。 体温を分け合うと、あたたかくて、しあわせ。 もっと、あたためてあげる。 一緒に、心まであたたまりましょう。 私の手のひらが、あなたの背中に触れる。 ぬくもりが、背筋に沿ってなぞるように……上へ、下へ。 下から、上へ。 上から、下へ。 あたたかくて、気持ちいいでしょ。 それに、背中を撫でられるとほっとしますよね。 呼吸も気持ちも、さらにおだやかになっていく。 下から、上へ。 上から、下へ。 背中をゆっくり撫でながら、10カウントする間に、 あなたの気持ちは、もっとゆるまってくる。 ゆるまるのとともに、心のかすかなこわばりまでほどけていく。 そしてゼロになって指を鳴らすと、あなたはここよりさらに深い所へ沈んでいく。 もう一段階、あなたの心の深いところまで、一緒に行きましょう。 私がそばにいるから、心配することは何もありません。 あなたは、私の声と背中のぬくもりに意識を向けていればいい。 心地よくて、気持ちよくて、眠りに入るちょっと手前のような、 まどろむような感覚を感じるかもしれませんね。 10、 あなたの背中を私の手のひらが上下する。 上から、下へ、下から、上へ。 9、 柔らかくて、ぽかぽかとあたたかーい手のひら。 上から、下へ、下から、上へ。 8、 子供をあやすような、やさーしい手のひら。 上から、下へ、下から、上へ。 7、 ゆっくり撫でられて、心の角が丸まっていく。 上から、下へ、下から、上へ。 6、 いたわるように、そっと撫でられる。 上から、下へ、下から、上へ。 5、 背中をなでられて、心がほぐれていく。 上から、下へ、下から、上へ。 4、 心がほぐれて、あたたかい……あたたかい。 上から、下へ、下から、上へ。 3 よしよし、いい子……いい子……。 上から、下へ、下から、上へ。 2、 心のかすかなこわばりが、ぬくもりにゆるまっていく……。 上から、下へ、下から、上へ。 1、 上から、下へ、下から、上へ。 0、パチン(指パッチン) 背中を撫でられながら、あなたはもっと深い所へ沈んでいく……。 すーっと沈む、沈む……。 もっと深い、深いところまでたどり着けましたね。 ここは、あなたの心の中の一番、ふかーいところ。 理性に縛られることのない、本能を解放できる場所。 ショットグラス、覚えてますよね。 そう、はじめに、あなたがカクテルを飲んだグラス。 ちょっと覗き込んでみて下さい。 飲み干したはずなのに、何か入っています。 グラスの中には、澄んだ液体が入っている。 透明の、液体。 どれくらい入っているでしょうか。 ほんの少しか、半分くらいか、それとも8割くらい? ……それは、あなたの想像次第。 両手で包み込むように、グラスに触れてみましょう。 あなたがグラスの中を覗いていると、水面が静かに揺れ始める。 ゆらゆら、ゆらゆら。 水面が波打って、ゆらゆら。 不思議なことに、その澄んだ液体は、グラスの底から湧いている。 水面の中心から、波紋が広がる。 1つ……  グラスの底から、液体が湧いてくる。 2つ……  波紋が広がって、少しずつグラスを満たしていく。 3つ……  波紋が広がるほどに、グラスはあたたかくなってくる。 4つ……  ほわっと、やさしいあたたかさが、手のひらに伝わってくる。 5つ……  波紋が広がって、水面がゆらゆら揺れて、きれい。 6つ……  透明の液体が増えるほど、あたたかさが増す。 7つ……  波紋が広がる。まだまだ、湧いてくる。 8つ……  澄んだ液体が、どんどんグラスを満たしていく。 9つ……  波紋が広がって、止まらない、湧いてくる。 10……  あたたかい液体が、淵まで、もういっぱい。 グラスの淵のギリギリまで、あたたかく、澄んだ液体がひたひた。 こぼれそう。 こぼれないように、手のひらにちゃんと包んでいて下さいね。 でも、淵まで届いたのに、まだまだ湧いてくる。 水面が、少しずつ膨らんでくる。 あふれてしまいそう。 グラスから、あふれてしまいそう。 あなたの手のひらの中にあるグラス。 そのグラスは……あなたの本能の入れ物。 そして、あふれてしまいそうなのは……あなたの本能。 ……そう、あなたの、涙。 あなたがお酒を求めてしまうのは、 あなたが、頑張っているっていう証拠。 頑張りすぎちゃって、ちょっと身も心もゆるめたい。 そういう気持ちの、表れ。 ……頑張りすぎちゃったんですね。 こんなに涙をため込んで……大変だったんですね。 ここは、理性に縛られることのない、本能を解放できる場所。 あふれそうなものは、そのまま、あふれてしまっていいんですよ。 だって、それは自然なこと。 涙を流すのは、とても、自然なことなんです。 思い出して。 背中にあるあたたかい感触。 そう、私の、手のひら。 ぬくもりが、背筋に沿ってなぞるように……上へ、下へ。 下から、上へ。 上から、下へ。 私が、背中をなでていてあげる。 (ゆっくりと囁くように) 私が、そばにいます。 膨らんだ水面が、揺れる。 まだまだ湧いてくる。 あふれてしまいそう。 涙がまあるく膨らんで……こぼれそう。 もう、あふれてしまいそう……。 3つ数えて、指を鳴らすと……あふれて、しまう。 1、 2、 3、 (指パッチン) あふれた涙は、すーっとあなたの中へ沁みこんでいく。 沁みこんで、あなたの心をうるおしてくれる。 胸の中がぽかぽかするのは、あたたかい涙がいきわたるから。 あたたかくてなめらかな涙が、うるおしてくれるから。 すこし、呼吸を整えましょう。 吸ってー……吐いてー…… 吸ってー……吐いてー…… そのまま、呼吸が落ち着くまで続けていて。 柔らかいぬくもりが、体中に広がっていく。 胸を満たして。 お腹を満たして。 腰から下半身。 そして、足先まで満たす。 肩から腕。そして、指先まで満たす。 そして、首から、頭の方へも…… 柔らかいぬくもりが、満たしていく。 あたたかい、満たされる。 胸の奥の、奥まで。 心まで包み込まれて、あたたかい。