2章
後日――。
当然のごとく、僕はルファ様と時を共にしていた。
「ほらベイタ。この地図を見て?」
「は、はい……」
床には世界地図が広げられていた。マジックで目立つように、ぐるりと一つの島に丸がつけられている。
「ベイタは知ってる? この島の名前?」
「ははいルファ様。これは――U島です」
もちろん知っている。島国のB国とA国をへだてるM海に、ぽつんと存在する別段特徴のない島である。
しかし、何と言ってもこの島こそが火種の元なのである。
「うふふ。そうよねU島よね……。ねぇ、この島……A国とB国、どっちが所有した方がいいと思う?」
糸のような妖しい目つきで見つめられる。心の天秤が左右にふらふらと揺れる。
僕には正直わからなかった。どっちでもいい。どっちでも――。そんな無責任な答えはルファ様は不服だろうか? でもベイタである僕にはきっと決定権がない。だからルファ様が決めて欲しい。A国美女様であるルファ様の言うことなら、きっといつでも正しいはずだから――。
「ベイタ。よく考えて。この島はとてつもなく価値がある代物よ。ここをどちらの領土とするかで、海域勢力が一変しちゃうのよ?」
「あああ……。そ、そうですね……」
「正直に自分の考えをお話しなさい……」
「ははははいぃぃ……」
豪奢(ごうしゃ)な椅子に座った、赤黒いロングドレスからのぞく、むしゃぶりつきたいほど肉感的で悩ましい美脚が、ふわりと優雅な動作で組み替えられた。
チラリと見え隠れした紫のパンティー。赤いヒールの足裏。こんな刺激的な光景をさらされて、冷静な思考ができるはずもなかった。
「あぅぅ……、あわわわ……」
僕は当然のごとく口ごもった。そこにルファ様が助け舟を出してくれた。
「ふふっ。ベイタはこう思ってるはずよ。U島はB国の領土。お前らA国はさっさとあきらめろー! なんてね」
「ええっ、そんなの思って……」
「正直にって言ったでしょう? あなたはB国人でしょう? 自国の利益なら追求しなきゃ駄目でしょう?」
「あ、ふぁ……」
「言いなさい。U島はB国の領土ですって……。いけすかないA国なんかにわたさないって……」
「そ、そんなのぉ……」
「言いなさい。このベイタ!」
「はっ、はいいいっ!」
教師が生徒を叱るような、強い語調で命令された。何か誘導されている気がしたが、ここはルファ様に従っている方が賢明だろう。
「あ、あの。U島はB国の領土……です」
「どうして?」
いきなりの質問。と、頭の片隅にあった浅瀬の知識を披露する。
「せ、1900年頃に、B国が領土と決めたから……それで」
「え? そうなの?」
「そ、そうです……」
「私はぁ……A国の方が先だと思ったんだけどぉ……。記憶違いかしらぁ……」
「あっ、あああっ……」
ヒールを脱いだ、A国美女様のつま先が僕の股間を優しく撫ぜた。
気持ちよすぎる。ぴたっと吸い付くように、ルファ様の体温を感じられていとおしい。
「ねぇん……欲しいなぁ……U島」
「あっ、あんっ。ああぁ……」
足でいじられただけで、頭が真っ白になり何も考えられない。ルファ様の美脚で屈服してしまう。ルファ様の言うことは全て正しい。ルファ様、ルファ様……。
「本当に欲しいなぁ……U島。ねぇん……ベイタの一存で決められないかしらぁ……。U島はA国領土でいいですって……ねぇねぇねぇねぇ♪」
「あひっ! あふぅん♪ あああっ♪」
ぐりぐりと足裏が乱暴に押し込まれる。A国美女様のうるわしい体重をかけた魅了攻撃に、為すすべなく白い売国ザーメンをまき散らす限界まで高められる。
「何イキそうになってるの? 駄目よまだ……。ちゃんと、お話合いが終わってから……ふふっ♪」
遠くへ離れる美貌のつま先。まるで阿呆の表情で、おあずけされた格好の無様なベイタは僕だった。
「ねっ。欲しいの。U島。何度も言ってるけどぉ……お願い♪」
「あっ、うううっ」
今度は趣向を変えたのか、ルファ様が四つんばいでにじり寄ってきた。じっと注視するのもはばかられるような美顔が、今僕の鼻の先に迫っている。
そんな魅惑的な瞳で見つめられたら僕は……。命さえも捧げてしまう。A国美女様に人生を狂わされて一生終えたい。つまらないB国で野垂れ死にするのなら、何もかも搾取されてぼろ雑巾という名の絨毯で踏まれ続けたい。
「でっ、でも。僕にそんな決定権は……」
「ううん。あなたが決めてぇ……。私の愛するベイタ。自信を持って。ほらぁ……」
「あっあふぅ……」
「U島を私達にくれたら、A国美女様の太ももマンコ、使わせてあげてもいいわよ……♪」
耳元に悪魔の囁きが吹き込まれる。太ももマンコ。何て扇情的な響きだろう。そんないやらしい言葉が、ルファ様の口から発せられたこと自体に激しく興奮してしまう。充血。狂おしい勃起。たちまち限界が近づいてしまう。
ドロドロぐちゅぐちゅのソースになった感情液が、行き場を失い今にもあっぷあっぷと出口を求めている。
U島とオマンコ。僕にとってはたいしたことのない孤島と、愛して崇拝してやまない美脚太ももマンコ。
「どうするぅ?」
まさに精を搾り取る淫魔の表情だった。それも人間の心を巧みに誘導して、読心術に近い思考操作を行う、サイコパス系なサキュバスのそれだった。
僕の答えもすでに決まっていた。あのむちむちの太ももとちっぽけな島じゃてんで釣り合わない。
ただ僕が気持ちよければいい。自分さえいい気分ならいい。たぶんそれはいつでも正しいのだ。A国美女様の命令なら2000%以上確実で絶対的なのは間違いない。
「んっ♪ ここに腰を突き入れなさい。入れた瞬間、U島はA国のものになるのよ? さぁいらっしゃい……」
「う……」
長いドレスの裾をまくり上げ、むっちりとした膝小僧を閉じる。なんて魅惑的過ぎる景色だろう。あの隙間に僕自身を入れてしまったら――なまめかしい太ももの隙間でくちゅくちゅとこすり上げられてしまったのなら――。
想像しただけで我慢汁がつうと漏れ出してしまう。全身でルファ様を欲している。本能に従うべき。全細胞全てがそう言っていた。
でも心のどこかでは迷っていた。本当はA国なんて大嫌いで。世界中から嫌われているのは事実で……。
「迷わないで……ベ、イ、タ♪ あなたの一番欲しいものが、今手に入るのよ……」
「あああ――。はい、はぁい……♪ ルファ様ぁ……今行きますぅ……」
かすかな良心と愛国心は、女神様の神託で雲散霧消してしまった。もうルファ様の美脚しか見えない。A国美女様の太ももマンコにベイタの粗末なアレを挟んでもらう、堕ちた売国マゾ奴隷しかここには存在しない。
僕は売国マゾ。売国マゾのベイタ。世界で一番いやらしく汚れて知能最低で見た目も短足で頭でっかちでのっぺり顔で、それでいて嫉妬深くいつも勘違いしてわめきちらして周りに迷惑ばかりかけているベイタのマゾ男なのだ。
これが本当の自分。きっとそうなんだ。今やっと解放できて理解したんだ。
「あんっ♪ ああ~ん♪」
「ひゃっ、あったかいよぉルファ様ぁ……」
「や~んベイタのくせにアソコはちょっと大きいのねぇ……。平均より上の子はちょっと好きよぉ……あ~んあん♪」
僕は最上級の性的籠絡器官にみっちりと包まれた。痛いほどペニスが歓喜し涙を流している。
「ほらほらぁ♪ もっと上まで突き上げなさい……。太ももとお尻の間でぇ……最高に気持ちいい空間で売国ザーメン吐き出しなさい……」
「あんっ。売国ザーメンなんて言葉言われたら、僕、僕ぅ……」
太ももに挟みこまれたまま、ルファ様が腰の位置を下へとずらす。甘く濡れそぼった秘部と尻肉のむちっとした感触が、太ももの包容力と渾然一体となり更なる桃源郷へと僕をいざなっていく。
「あっ、ふぅん……♪ 僕っ……僕ぅ……」
「あ~んベイタくぅん♪ もっとお姉さんに体を押し付けていいのよぉ……。そうするとぉ……」
「んっ♪ ふぁ、ああっ、ルファお姉様ぁ……」
声に体を支配される。赤子のように背中に手を回し、ふくよかな乳房に甘えながら顔をすりすりとうずめていく。
「太もも……オマンコ……お尻♪ 全部味わってぇ……。おっぱいも……チュッ♪ 唇もぉ……。A国美女様の全てを堪能できるのよぉ……。んっああんっ……んっ……好きぃ……ベイタのこと……本当に好きぃ……」
「ふぁ、ありがとうございまぁす……。何もかもルファ様に捧げますぅ……。あん気持ちいいっ♪ 溶ける溶けるのぉ……お尻で太ももでオマンコで……あああ――」
「いいのよ溶けて溶けてっ! 一緒にイキましょベイタ……」
ぱぁんと何かがはじけた。壊れて壊れてまた塗りつぶされた。
記憶がなくなり自律意思を持たない人形なる。
深すぎる底なし沼へと堕ちていく。
その沼の主は――もちろん女神ルファ様である。
いいのよ。来て。いらっしゃい……。と砂糖を濃密に煮詰めてとろかしたような声で何度も誘惑される。
「あんっ♪ ベイタのくせにぃ……。でもいいわぁ……。ベイタ、ベイタ、私の可愛いベイタ……。んっ♪ ほらもっと来てぇ♪ あんっ♪ いいの……そこ♪ あんっ♪ ああ~~んあんあんあんっ♪」
「あっ、あへっ、あはぁ、あっあっ。いいのっ……お姉さますごくぅ……♪ あうぅああいいひえぇぇ――」
僕はほとんど奇声に近い嬌声をあげながら、女神様の肉体をむさぼった。
堕ちゆく中で、女神様から与えられた『ベイタ』の三文字だけはしっかりと脳内に刻み込んだ。