Track 2

遊戯「ドミノ倒し」

◆2 「ドミノ倒し」 【優衣】 「……『ドミノ』と『ドミノ倒し』って別物だーって、  兄さんは知ってる?」 【兄】 「……『ドミノ倒し』ってなんだ」 【優衣】 「いましてるのが『ドミノ倒し』。  この『ドミノ倒し』っていうのは後々生まれたもので、  本来の遊び方は別にあるのよ?」 【兄】 「へえ」 【優衣】 「ほら、ドミノってサイコロの目が振ってるでしょう?」 【兄】 「んー?」  ドミノを返す。  カッと音がした。 【兄】 「あ」 【優衣】 「あ」  あっという間に全部のドミノが倒れる。 【兄】 「ああ……」 【優衣】 「もー、なにしてるのよ……。  無神経にドミノをひっくり返すのやめなさい、まったく……」 【優衣】 「兄さんがしたいーっていうから、  勉強もしないで付き合ってるのよ?  足引っ張るなら、やめるから」 【兄】 「……ウス」  再びドミノを立てる。 【優衣】 「……ドミノの遊び方はね、隣接した目の数を合わせるってものなの」 【優衣】 「例えば、この牌と、この牌」  二つの牌をテーブルに置く。 【優衣】 「こっちの牌の三の目と、もう一方の牌の三の目を合わせるの。  そして、牌のもう一方の目……これは五の目ね。  この五の目に合うように、五の目がある牌を……合わせる、と」 【優衣】 「まあ、こういう遊びね。  全員が手札を持ってて、先に手札がなくなった人の勝ち。  トランプと似たような遊びよ」 【優衣】 「日本では『将棋倒し』ってものが先にあったから、  自然と『ドミノ』よりも『ドミノ倒し』が  一般的に知られるようになったみたいね」 【優衣】 「実際、普通に『ドミノ』の遊びをしてる人なんて、  聞いたこともないし」 【兄】 「ふうん」  適当に会話をしながらドミノを立てて並べる。  テーブルの上に障害物を置いて、  その間を蛇行するように並べていく寸法だ。 【優衣】 「……ドミノの倒れる音って、軽妙な感じよね。  カタタタタって、気持ちいい音」 【優衣】 「倒れる風景も連鎖的で……。  あー、バタフライ効果って  可視化するとこんな感じなのかなーって思ったりして」 【優衣】 「一瞬のイベントで、ドミノ倒しは始まっちゃう。  それは意図的であったり、偶発的であったり……」 【優衣】 「ただの遊戯、ただの物理法則なのに、  なんだか人間生活の縮図みたいじゃない?」 【優衣】 「テーブルの上に障害物を置いて、その間を縫うように牌を並べて」 【優衣】 「そうやって計画的に歩んでいるのに、  ふとした出来事でフイになっちゃう」 【優衣】 「どんなに計画を立てたって、計画通りに行くほうが少ない。  結局、計画なんて立てずにアドリブ力を磨くほうが重要なのよね」 【優衣】 「……って、ふふっ。  なーに情緒的なこと言ってるのやら」 【優衣】 「まあ、アドリブ力をつけるっていうのは、  社会を生きていく上でとても重要ね。  どんな状況であっても、慌てずに、的確に判断して行動に移せる。  それこそが、人として完成された存在なわけで――」  スッと優衣が手を伸ばす。  だらんと垂れた袖口。 【兄】 「あ」  カタタタ… 【優衣】 「あっ」 【優衣】 「あっ、あっあ、ああっ! やだっ! っ、っ!  うあ、止まらない! っ、兄さんっ、助けてっ!  て、適当なところでいいからっ、牌を取って!  じゃないと、最後まで、あっ、ああっあーっ!」 【優衣】 「あ……あぁ……ぁ……ぁぁ……ァ……」  ミスなく牌を重ねていた優衣の陣地は倒れたドミノだけになった。 【優衣】 「っ、なんてっ……非生産的な遊びなの……っ!」