chapter 3
さて、どこからしてあげようかしら。
ねぇ、どこがいい?私は、汗でしっとりとして来たこの髪を撫でてあげたいわ。
自分では気付かなかった?貴方の体、全身に朱が差していることは、すでに教えたわね。身も心も鮮やかに染まっている貴方、とても綺麗よ。
そして、この髪も、手櫛で形が整えられるようになっている。私がまとめてあげるわね。
……ん~、これでいいかしら。
ふふっ、私の手、貴方の汗で少し濡れてしまったわ。
懐かしい匂い…。このような感情が湧くあたり、私にもまだ本能というものが残っているのね。
あら、顔を下げちゃ駄目よ。
また髪を直さないといけないじゃない。ほら、こめかみの辺りが崩れている。悪戯好きな子どものような髪ね……。
さぁ、顔を上げて。出来ない?……そう、支えが必要なのね。
いいわ、それなら、少しの間、目を閉じていなさい。
……こうやって、コツン、と。
いいわ、目、開けなさい。
駄目、逃げちゃ。
びっくりした?こんなに近くから目を合わせられるのは初めて?いえ、子どもの頃以来かしら?私の額が支えなのは不満?
私は、貴方に見つめられるのは嫌な気分ではないわ。色んな表情が浮かんでいるのを間近で観賞できて、とても楽しい気分よ。
最初は戸惑いの色が濃かった。次に緊張。そのあとには陶酔。そして、それが落ち着いて来た今は、照れがあふれている。
さぁ、続けましょう。次はどこをくすぐってあげようかな…。
この敏感な耳、それとも、このほっぺた?あらあら、まだ触ってないわよ?
今、貴方の耳と頬を撫ぜたのは、ほんの小さな風。私の指は、まだ貴方の顔の周りをたどっているだけ。
でも、それだけで感じてしまう。貴方が快楽に対して優秀な感度を持っている証。
本当に、これからが楽しみになって来るわ。
ああ、もう、泣きそうな顔しないの。焦らしてしまってごめんなさい。
いい子だから泣かないで、ね?涙、指で拭いてあげるから。
そうだ、目の周りにも気持ちよくなれるところがあることを教えてあげる。
それはね、まつげ。
髪の毛をいじられて気持ちよかったのは、本当は髪の毛自体が快楽を感じているわけではないの。
髪の毛の根元、髪が生えてくるところに、痛みや快楽を感じる力があるの。
まつげにも、その力がある。とても敏感なところだから、優しくしてあげるわ。
さぁ、目を閉じて。両手で貴方のお顔をそっと包んで、両の親指で愛してあげる。いくわよ……。
どう、気持ちいい?貴方の吐息、心なしか熱がこもっているわ。
重なり合っている額から、貴方の体の震えも伝わってくる。
目、開けては駄目よ。貴方の瞳が傷ついてしまうから。
その代わり、まぶたのすぐ下の肌も一緒に撫ぜてあげる。
ふふっ、涙や汗で濡れたからかしら。貴方の肌、私の指に吸い付いてくる。離れていくのが惜しいのかしら。貴方の体、色んなところが甘えん坊ね。
好きよ、そういう人間。甘える姿を見せるのは、とても勇気がいることだもの。私に導かれて、今の貴方の姿があるのね。
当の昔に飽きたと思っていたことなのに、とても満ち足りた気分よ。