Track 3

催眠誘導

今から、私が言うことを……想像してください。 夜。今は……夜。 夜の……11時ぐらい。 少し、肌寒くて……どこからか、虫のなく声が聞こえてきます。 月明かりが……貴方を優しく包みこむような。 ……そんな、夜。 あなたは駅のホームに立って……電車が到着するのを待っています。 立っているのは、ちょうど……でこぼこした線の上。 靴越しに、でこぼこした感触を感じます。 ……あぶないから、もうちょっと後ろに……下がりましょう。 ちょっと、後ろのほうへ。 一歩。二歩……もうちょっと。うん、そのへんでいいかな。 あなたの立っている駅のホームは、とても静かで……ガランとしています。 聞こえるのは、あなたの息遣いの音……それに、どこかで虫が鳴く音……。 そのくらい……かな? ……あ、それと……ホームに置いてある、自動販売機の音……。 ゴウン、ゴウンと……機械的な低い音が、規則正しく繰り返されます。 ……周りが静かだと……普段は気づかないような、こんな音も……聞こえてくるんだね。 ほら、蛍光灯からも、じーって音がする……。 ……本当に、静かです。 ……ふいに。 『電車がまいります』。 そんなアナウンスが……流れました。 もうすぐ、電車がやってくる……みたいですね。 あなたが待っていた電車が……もうすぐ……。 ほら、遠くから電車の走る音が……聞こえてくる……。 カタンカタンと……電車の走る音……。 音が……だんだんとこちらへ、近づいてきます。 カタンカタン……。 どんどん近づいて……ほら……速度を落としながら、電車がホームへ入ってきます。 電車の起こす振動が……あなたの身体を微かに揺らす……。 電車の起こす風が……あなたの身体を撫でる。 電車の速度がもっと落ちて……。 音が……カタン……カタン……ゆっくりになる。 振動や風も、だんだんと収まって……。 電車が、ゆっくりと停車しました。 ドアが音を立てて、開きます。 ……さぁ、電車に乗りましょう。 右足、左足、好きな方の足を前に出して……。 ホームと車両の隙間に気をつけて、少し大きく……。 電車内の床の感触を確かめるようにしながら……あなたは、車両の中へ足を踏み入れました。 車内の……少し暖かい空気が、あなたを優しく……ゆったりと包みます。 外は……少し肌寒かったから……なんだか、ほっとするような……暖かさです。 ……車両には、あなた一人だけ。何処の席に座ろうか……そんなことを考えていると……。 『ドアが閉まります。ご注意ください』 ……あなたの後ろで、ドアが音を立てて閉まりました。 ドアが閉まると……あなたのいる電車の中は……もう、閉じられた空間。 外の冷たい空気も……虫の声も……もう……入ってきません。 ……まるで周りの空間から……あなたのいる車両の中だけが切り取られたような……そんな感じ……。 ……電車が、動き出すようです。 揺れると危ないので、近くのつり革に……つかまっておきましょう。 つり革に触れると……プラスチックのつるつるとした感触が……あなたの指に伝わります。 そう、しっかり握って……。 あなたをのせた電車が、動き出します。 少し揺れるから……ちゃんとつり革に掴まっておきましょう……。 カタン……コトン……。 電車が、動き出しました……。 カタン……コトン……。 電車が、だんだんと加速していきます……。 カタン……コトン……。 さてと……。 ……好きな席に、座りましょう。 今、車両にはあなた一人。どの席でもかまいません。 好きな席に、座ってしまいましょう。 ……席に腰掛けると、シートの感触が……あなたのお尻と背中に伝わります。 柔らかすぎず……硬すぎない……。 あなたの体重で少しだけ沈む……シートの感触……。 カタンコトン……。 電車がレールの上を走る、規則正しい音が……聞こえます。 カタンコトン……。 音にあわせて……少しだけ、振動が……伝わってきます。 カタンコトン……。 なんだか……眠くなってしまいそうな……。 カタンコトン……。 意識が……ぼうっとしてきます……。 カタンコトン……。 揺れる……揺れる……。 カタンコトン……。 眠い……なんだか……眠く……なって……。 カタンコトン……。 電車が揺れる……。 カタンコトン……。 揺れるたび……だんだんとあなたは……眠くなっていく……。 カタンコトン……。 意識が揺れる……。 カタンコトン……。 心地よい眠りが……あなたを誘う……。 カタン……コトン……カタン……コトン……。 ……あなたは、深い眠りに……入っていきます。 ……。