Track 7

素股「パンツ有」

◆7 素股「夕方の異常」 【兄】 「ただいまと」  いつもより少し遅い帰宅。  夕日を浴びながら玄関を開けるのは珍しいことだ。  静けさを湛える家のなか、物音は俺が靴を脱ぐ音だけ。  誰もいないのか? 【兄】 「靴はある」  学校指定の革靴。  優衣は帰ってきているみたいだ。  それとも、着替えて出かけに行ったのだろうか?  まあ、誰もいないならいないで構わない。  のんびりと夕飯までの時間を潰そう。  ……  コートを脱ぎながら自室の扉を押す。 【兄】 「……ここにいたか」  ベッドの上で横になっている制服姿の妹に声を掛ける。  返事は返ってこない。 【兄】 「優衣?」  心配になって近づく。  紺青のブレザーはボタンが外され、上体は海老色のカーディガンを  羽織っている。  ブラウスの下から持ち上げられた胸が上下しているのか確認する。 【優衣】 「すぅ……すぅ…………くぅ……」  ……寝ているだけか。  紛らわしいやつめ。  ベッドから離れ、コートをハンガーにかけて、一瞥。  布団の上からベッドに横になる優衣。  こんな時間から寝るとは、昨晩は夜更かしをしたのだろうか。  ……あー、うん。しましたね……夜更かし。  普通に夜遅くまで優衣に慰めてもらってました、ハイ。 【兄】 「もうちょっと遠慮しないと……負担かけちゃあな」  ベッドに腰を掛けて、寝息を立てる優衣を眺める。  そっと手を伸ばして、頭を撫でる。  申し訳なさから生まれた行動。  決して、ただ触りたいなどという理由ではない。  妹の頭を触るくらいなんていうことはないんだから。 【優衣】 「すぅ……すぅ……ん、く…………すぅ……すぅ……」  起床や帰宅時刻のせいで優衣の制服姿はあまり目にすることはない。  物珍しい心境で眺める。  呼吸に合わせて上下する胸。  制服の上からでも湾曲した輪郭を鮮明に描く。  視線を下へ向ければ、スカートの中からすらりと伸びる脚線美。  白い肌がよく映えていた。  手が持ち上がりかかる。 【兄】 「……」  慌てて堪える。  ……なんだろうか、この感覚は。  もしかして、触りたいとでも思ったのか?  夜になれば、いつものようにスキンシップの増える優衣だ。  身体の感触くらい、自ら触りにいったことはないにしろ、  大よその判断はつく。  ……それでも、直で触れて確かめようと?  布団の上を滑らせる。  手の甲で軽く触れるくらいなら。  いや、そんな馬鹿みたいなやり方があるか!?  『先っちょだけだから』に通ずる何かがある。  アホらしい。 【兄】 「……」  視線は逸らせられない。  憑りつかれたように肢体を眺め、  頭に置いた手を動かそうとして、優衣と目があった。 【優衣】 「……触りたいなら、触ってもいいわよ」 【兄】 「っ!?」 【優衣】 「気になるんでしょ? 人の体が……女性の体が。  その好奇心を理解できないほど馬鹿じゃないわ」 【優衣】 「いいわよ。  赤の他人を勝手に触って通報されるのは問題だけど、  許可を出してる妹の体を触るのは……セーフでしょ?」 【兄】 「いや、それもどうなんだ」 【優衣】 「ん、っ……」  のそのそと体を起こした。 【優衣】 「ん」  両手を広げる。 【優衣】 「どうぞ」 【兄】 「……」  まだ少し寝惚け眼の優衣。  もしかすると寝惚けているのかもしれない。 【兄】 「とう」  チョップ。 【優衣】 「あいた」 【兄】 「兄をからかうのもそこまでだ」 【優衣】 「んぅ……。そういうところが兄さんの悪いところよ?」 【兄】 「どういうところだ」 【優衣】 「相手の言葉を信用しないところ。  どんなに相手が良いと言っても、  兄さん自体が合理的によしと判断しない限り行動に移さないところ」 【優衣】 「兄さんが初恋相手となんっっっのイベントもなく、  何の進展も起きなかったのはそのせい」 【優衣】 「相手の立場に立っているつもりなのに、主観は兄さんのまま。  兄さんの勝手な価値観を、人に押し付けてる」 【優衣】 「もっと自分に素直になれば、男らしくなると思うんだけど」 【兄】 「古傷をさらっと抉るな、バカ」 【優衣】 「……人を傷つけまいとして、人を傷つけているって、  いつ気付くのかしらね」 【兄】 「……どういう意味だ?」 【優衣】 「さあてね」  惚けるように言い放ち、ぐぐっと伸びをする。 【優衣】 「んん~~~っ……、……んっ! はあぁ……」 【兄】 「……」  背筋を反ったために強調された胸に視線が行ってしまう。  気付かれる前にと視線を逸らし、話題を振る。 【兄】 「で、なんでここにいる?」 【優衣】 「うんー? ここにいる?  ……あぁ、私が兄さんの部屋にいる理由?」 【優衣】 「うー、ん。……まぁ、その……ははは」  頬をポリポリと掻いて苦笑いを浮かべた。 【兄】 「なんだよ」 【優衣】 「ちょっとした……相談? って言ったらいいかしら。  報告……とはちょっと違うし」 【兄】 「だからなんだ」 【優衣】 「……今日、ね。  …………告白、されちゃった」 【兄】 「こ」  告白?  告白というのは、一般的な意味での告白だろうか。  優衣のことだ、からかうために『打ち明ける』という意味の  告白を使っているかもしれない。 【兄】 「告白、っていうのは」 【優衣】 「うん……まぁ、えーっと。  ……そうね、有り体に言えば……『好きだ』って言われたの」  変な小細工はないようだ。  優衣は『告白』された。  この雰囲気で、よもや相手が女の子っていうことはあるまい。  優衣の表情は真剣に見える。 【兄】 「……そうか」 【兄】 「で、……どうするんだ」 【優衣】 「どうするかは、決めてないの。  返事は保留」  まさか。 【兄】 「断らなかったのか?」 【優衣】 「くす、どういうこと? それ。  まるで私が絶対に断ると思っているみたいな言い方」 【兄】 「あ、いや……そうだな。それはおかしい」  優衣に指摘されて初めて気付く。  どうして俺は、優衣が告白されても断るはずだと  決めつけていたのだろう。  誰かのものになるだなんて、  絶対に有り得ないなんてことを……どうして。 【優衣】 「勇気を出して本気で『付き合ってくれ』って言ってくれた人を、  その場で簡単に考えただけの答えで返すほど、  私は短絡的じゃないわ」 【優衣】 「きちんと考えて、私なりの答えを返さないとね」 【兄】 「……それは当然だ」  告白の返答による境遇の変化は、優衣にだけ訪れるものじゃない。  相手にだってもちろん影響を与えることになる。  告白することによる勇気は、俺にだってわかる。  どれだけ悩み、苦しみながら、  恐れを抱きつつも想いをぶつけに行ったことか。  その場の安易な考えで返事をしなかったのは、正解かもしれない。  だが、少なくともその場で即答をしなかったということは、  優衣自身は相手のことを好きではなかったということではないか。  なら、それほど大きな悩みではないようにも思う。 【兄】 「お前は、付き合ってもいいって思ってるのか?」 【優衣】 「……兄さんは、どう思う?」  俺? 【優衣】 「付き合うべきだと……思う?」  なんでそんな質問をする。  俺にそんなことを訊いて、どうするつもりなんだ。  もし、『付き合うべきだ』と言えば、優衣は付き合うつもりなのか。 【優衣】 「兄さんの意見が聞きたいの。  聞きたかったから、真っ直ぐ帰ってきて……  ここで待っていたわけだし」 【兄】 「聞いてどうする」 【兄】 「付き合うべきだって俺が言ったら……付き合うのか?」 【優衣】 「くすっ、付き合うかどうかは……兄さんの理由付けによる」 【優衣】 「付き合うべきだーっていう言葉に裏付けられた理由が  妥当なものなら、兄さんの意見を尊重する。……かもしれないわ」 【優衣】 「逆に、妥当性がなければ、返事はNO……とするかもしれないわ」 【兄】 「なんだそりゃ」 【優衣】 「ほら、兄さん。……私はどうしたらいいと思う?」  困ったように笑う優衣の真意が計り知れない。  ただ俺の意見が聞きたいだけなのだろうか。  だとすれば、『かもしれない』とぼかしている理由もわかる。  なら、優衣の答えは最初から決まっているわけだ。 【兄】 「……」  決まっているなら、勝手にしてくれればいいのに。  わざわざ俺の声を聞いてから答えを出さなくてもいいだろう。  ――嫌な奴。  そう思った。 【兄】 「お前は……そいつのことをどう思ってるんだ?」 【優衣】 「ん? わたし?  私がその人のことをどう思っているか?」 【優衣】 「うーん……。まぁ、はっきりと言っちゃえば……」 【優衣】 「いいかなぁって思ってる」  優衣の言葉と表情に、心が動く。  曖昧にしながらも、好意的な表現。  少し恥ずかしそうな顔が、言葉を裏付ける。  まさか、あの優衣が――  こちゃまぜになる胸中を悟られまいとして、俺は平然と言葉を返す。 【兄】 「……そうか」 【優衣】 「うん……」  俯いて顔を隠そうとする優衣。  そんな姿を見ていられなくて、俺はじっと自分の手を見つめていた。  哀しむことではない。  むしろ喜ばしいことだ。  この手が知っている優衣の柔らかさは、  本来は俺が知るべきところではない。  やっとこれで……普通の兄妹に戻れる。  普通の……兄妹に。 【兄】 「……」 【優衣】 「……」 【優衣】 「んふ」 【兄】 「ん?」  鼻で笑うような音。  顔を横に向ければ、  肩で顔を隠そうとする優衣がピクピクと震えていた。  漏れ聞こえる声。  瞬間に察した。 【優衣】 「んふふ……っ、く……ふふふっ……!」 【兄】 「てめえ! 嘘か!!」 【優衣】 「あははははっ!! 本気で焦った顔したー!!  あはははっ!  なーに、さき越されちゃうかもーって心配した?」 【兄】 「そんなんじゃねーやい!」  顔を上げて笑う優衣の表情。  さっきまで感じていた真剣そうな、困惑したような憂いの色はない。  いつもの、兄を小馬鹿にする妹の顔。  くそ、まんまと嵌められた! 【優衣】 「嘘よ、うそ。ぜーんぶウソ。  私は誰からも告白されていないし、  とある特定の男性を好きになってもいないわ」 【優衣】 「くすくすっ、こんな気難しい女にはまだまだ春は来ませんよー。  ご安心ください?」 【兄】 「誰も心配しとらんわ」 【優衣】 「はいはい、心配してまちぇんねー。そーでちゅねー」 【兄】 「殺す!!」 【優衣】 「きゃーっ♪」  ベッドに押し倒し、抵抗して動き回る手を掴まえる。  両手首を片手で握って頭を上で押さえつけると、  耳を引っ張ったり頬をつねったりして痛め付ける。  程なくして、とある疑問が脳裏に浮かぶ。 【兄】 「じゃあ、なんでここで寝てたんだ?」 【優衣】 「っ、んぅ? あー……。べつに」 【優衣】 「まさか出かけてるとは思わなくて。  顔を出したら兄さんはいないし……?  出ばなを挫かれたままも癪だから、ふて寝してた」 【兄】 「ふて寝、て」  ちょっと待てよ。 【兄】 「じゃあ、お前……最初から起きてたのか?」 【優衣】 「うん、そう。  兄さんが部屋に入ってくる前からずーっと起きてた」 【優衣】 「倒れてるんじゃないかと心配して顔を覗きこんだのも、  優しく頭を撫でてくれていたのも……ぜーんぶ知ってる」 【兄】 「わざわざ口に出さんでもよろしい」 【優衣】 「くすくすっ、お兄ちゃんだものねー。仕方なーい、仕方ない」  寝たふりをしていたことに対しての軽い苛立ちと、  勝手に頭を撫でいたことを許してもらったことに対する安堵感。  両者の感情は、圧倒的に後者が勝っていた。 【優衣】 「んふふー、にーさーん?」 【兄】 「ん?」 【優衣】 「おーいで?」  またさっきみたいに両手を広げる。 【兄】 「……なんのつもりだ?」 【優衣】 「折角だし、夕飯までの間、一緒に寝てましょ?  別にすることなんてないでしょう?」 【兄】 「ないわけではないが……」 【優衣】 「ないわけではなくても、拒否はしない。  受け身思考な兄さん特有の反応ね」 【優衣】 「ほら。……ぎゅーって、してみて?」 【兄】 「……」  首を傾げながらにこやかにほほ笑む。  朝方や日中はきびきびとしている優衣。  いくら学校帰りだからと言っても、甘えるには少し時間が早い。  何か……甘えたい理由でもあるんだろう。  なんでもないように装いつつも、  案外、心の内は寂れているのかもしれない。  さっきの嘘は、その裏返し……とか。  考えすぎか。 【兄】 「抱きしめるだけだぞ」 【優衣】 「もちろん。抱き締めるだけよ。  ……他に何かしたいことでもあるの?」 【兄】 「余計な詮索をするな」  言を返して、隣りに座る優衣を抱き寄せる。 【優衣】 「ん、んむっ……ん」  胸の辺りで苦しげな優衣の声が漏れ聞こえた。 【優衣】 「……へたくそ。もっと優しくしなさいよ。  そんなに急に抱き締めたら、顔が潰れちゃうでしょー」 【兄】 「文句ばっかり言うな。お前からしろって言ったんだぞ?」 【優衣】 「下手なもんは下手。  私を抱き寄せるようにしたら、  こうなっちゃうに決まってるじゃない」 【兄】 「じゃあどうしろと」 【優衣】 「んー……そうね」  一旦、体を離す。 【優衣】 「こうするの」  不意に顔が目前に迫り、両手が首に回される。 【優衣】 「ん、ん~~っ……んふ。首に両手を回して、頬をくっ付けるの。  ね? 身体が密着するでしょう?」  耳の傍からぼそぼそと話される。  吐息が首筋を駆け下りて、ぞくりとした。  ……あまり宜しくない体勢だ。 【優衣】 「ほら、兄さんは腰に手を回して……?  ぎゅーってして、もっと密着させるのー」  ……拒絶したほうがいい。  甘えられるのは嫌ではないが、限度がある。  優衣のお願いと言えど、これ以上は……  ……。 【兄】 「……こうか」  腰に回した腕を寄せる。 【優衣】 「ん……。……うん、そうそう」  ……解ってはいるが、それを行動に移すのは難しいわけで。  ましてや妹のお願いともなれば、なかなか断りにくい。  結局、今も昔も、小馬鹿にされながらも俺は優衣を甘やかしている。 【兄】 「……」  諦めて、俺はきゅっと腕を寄せた。  腰を抱き寄せているはずなのに、体に押し当てられるのは対の丘陵。  いかん、離れなければ。  すっと力を抜くと、優衣が腕を引いて体を寄せてくる。  ……諦めよう。  何も話さずにいるので、俺は目下に広がる優衣の制服を眺めた。  学校の制服っていうものにときめくような趣味はない。  ただ、『あぁ、こいつの学校はこんな感じの制服なのか』とか、  『制服があった頃が懐かしいな』とか、そんなことを考えてた。  赤味がかった紺色のブレザーに、  黒を基調とした薄黄色や白のチェックが入ったスカート。  腕につられて持ち上げられたブレザーの下からは  海老色のカーディガンが覗く。  冬だというのにこんなに素足を晒して寒くないのだろうか。  スカートかて、下から寒風が吹きつけるわけだし。  脚の根元まで冷気に晒されると思うと堪らない気持ちになる。  制服というのは、服装のコーディネートをせずに済むという  メリットだけでなく、決められた服装を強制させられるという  デメリットも存在するのだろう。 【優衣】 「あの……」 【優衣】 「さっきは……ごめんなさい。  からかったりして」 【兄】 「は……?」  急な謝罪。  突然なんだというんだろう。 【兄】 「あー、いや。別にいいけど」 【兄】 「今更からかわれたところでなんとも思わんよ」 【優衣】 「くす。……うん、そう答えると思ってた」  首に回した腕を引き、甘えるように頬をすり寄せてくる。  ……やっぱり、なにかおかしい。  具体的にどこがおかしいとかではなくて、直感がそう言っている。 【兄】 「何か嫌なことでもあったか?」 【優衣】 「うん……? 嫌なこと? ……どうして?」  不思議そうな声を出す。  勘違いか? 【兄】 「ここまで甘えるってことなかったろ。  ましてや、これから就寝ってわけでもない」  まだ今日という一日が終わるわけじゃない。  甘えるパターンとしては、逸脱している。  優衣は俺の言葉に微笑みながら答える。 【優衣】 「夜じゃないのに甘えてるから……?  くすっ……別に、寝る前にだけ甘えてるつもりはないわー」 【優衣】 「そのときどきの気分よ。  ……あと、甘えてるつもりもないから」 【兄】 「嘘つけ。お前が自称する甘えたいモードと同じじゃねーか」 【優衣】 「甘えたいモード……?  えー? 誰がそんなこと自称したっていうの?」 【兄】 「だからお前だって、お前」 【優衣】 「私が?  ……さあ、そんなこと言ったかしら?」 【兄】 「とぼけやがって」 【優衣】 「くすくすっ。まあまあ、今はそんなことどうでもいいでしょー。  ほら、もっと抱き締めなさーい」 【兄】 「偉そうに」  思わず漏れる文句も、他愛もないもの。  自分自身で否定するように、優衣の体を抱き寄せる。  待ってましたとばかりに喉を鳴らして喜ぶ優衣。  俺は何気なしに、あやすように背中を叩いた。  肩口で安心したような息を吐く。  溜め込んでいた不安を吐き出すように息を吐き、不満を打ち消すよ  うに抱き締める。  優衣の行動一つ一つが、何か意味を持っているように思えた。 【優衣】 「……そっか」 【兄】 「ん……?」 【優衣】 「私……嫌なことがあったのね……。  だから……兄さんに甘えたかったんだ……」  独り言のような声。  それでも、耳元でわざわざ喋る辺り、  聞いてほしい独り言だったのだろう。 【優衣】 「くすくす……ありがとう、にーさん」 【兄】 「……別に、感謝されるようなことじゃな――」 【優衣】 「はぁ……ふ……、……ちゅ、っ」 【兄】 「はえ」  首筋に感じる柔らかい感触。  同時に近距離から拭きつけられる吐息。 【優衣】 「んふふー。この前のお返し」 【兄】 「こ……この前?」 【優衣】 「ほら、いつだったかの朝……兄さんがしたじゃない。  突然……私の首筋に、キス……」  忘れていたわけではない。  あれは俺が雰囲気に飲まれた……というか、なんというか……。  無意識にしてしまった行為だ。  行動に理由付けするのが難しかった行為。  利口な優衣がするようなことではない。 【優衣】 「そのお返し。……ふふ、どう? ビックリした?」 【兄】 「そりゃビックリするわ」 【優衣】 「ふふーん。なら成功ねー。  ……私があのとき、どれだけビックリしたか思い知ったか」  クスクスと笑う優衣。  ただからかっているだけだ、深い意味などない。  平常心、平常心……  ひっそりと深呼吸をする俺をよそに、布団の上をすりすりと動き、  優衣は更に密着しようと体を寄せてくる。 【優衣】 「……もう一回してあげよっか?」  囁く声で、突然の提案。 【兄】 「……な、なにを」  不躾でも訊いてしまう。  返す言葉が思いつかなかった。 【優衣】 「キス。……首筋の、耳たぶの裏……下らへん? へのキス」 【兄】 「い、いや、もうしなくてもいい」  取りあえず否定的な言葉を返す。  唐突過ぎて頭の回転が追い付かない。  こいつは何を言っているんだろう。 【優衣】 「そう言う割には、嫌そうには見えないけど?  さっきだって、ぴくって動きはしたけど……  私のことを突き飛ばそうとはしなかったし」 【兄】 「それは、お前がくっついてくるから」 【優衣】 「ふうん? 私がくっついてくるから?  へぇ、そう……。  じゃあ……」 【優衣】 「今度は、ちゃーんと逃げてね?」  そう言うと、優衣の頭が傾く。 【優衣】 「んん~……ちゅぅ」  首元で確かに覚える柔らかさ。  一連の躊躇いない動きに身体が追い付かなかった。  嫌だと言ったのは俺だ、抵抗しないと……!  腰を掴み、引き剥がしに掛かる。  だが、腰が引けるばかりで、首に腕でロックされた上体は動かない。  優衣は構わずキスを続ける。 【優衣】 「ちゅ……ちゅ…………んん……ちゅ、ちゅぅ……ちゅ」  決して同じ個所に唇は当てず、  毎度首を傾げては余すところなく口づけを行う。  こいつは本気だ。  俺が抵抗をしない限り続けるつもりだ。  慌てて腰を掴んでいる手を上へ向かわせる。  脇を掴んで引っぺがせば、上体も動くはず。  ブレザーが開けているせいもあり、  腰を掴んでいる手はカーディガンに触れていた。  そのまま体に沿って滑らすように上へ向かわせると、親指が何かに  引っ掛かる。  ふにふにとした感覚。 【優衣】 「ん……ちゅ、ちゅ……――っ、んフっ、ふっ」  優衣が声を上げた瞬間で、それが何かを察した。  首に寄せていた顔をゆっくり上げて、息を吐く。 【優衣】 「……胸を触りたいの……?」  とんでもない勘違いをさせてしまった。 【兄】 「ちゃうちゃう! ただ手を上に滑らせただけ!  胸の存在を忘れていただけ!  そう、むしろ胸のことは気が付かなかったんだよ!」 【優衣】 「手が滑った……?  ベタな弁明。言い訳にすらなってないわ」 【兄】 「そっちの滑ったじゃねえ!」 【優衣】 「どさくさ紛れに胸を触ろうなんて、いい度胸ね。  ふふん、これはお仕置きが必要と見た」 【優衣】 「噛んでやる。……かぷ」 【兄】 「ぎゃーーーー……?」  あまり痛くない。  そりゃそうだ、本気で噛めばお袋も真っ青な流血事件になる。 【優衣】 「かじかじ……ん、ちゅ、ちゅ……ん、はあぁ……はみはみ……」  歯形を付けては、その部分を癒すように口づけで上書きする。  首筋を噛まれるというスリルの上に優衣への信頼が重なることで  成り立つ行為。  なんだか……首を噛まれるのが心地よく――  いやいやいや、そうじゃないだろう! 【優衣】 「ん……はぁ……、ぁ……ちゅ、ちゅっ……ちゅ、  ……ん、ぅ、ふ…………はあ、ぁ……はふ……」 【優衣】 「兄さん……逃げないの? 抵抗は?」 【兄】 「してるっ――、いや、する。今からする」  脇から持ち上げるようにして優衣を剥がしにかかる。 【優衣】 「んんぅ、んっ……はぷっ、かむ……ん……、っ♪ フ、ぅ……」  少し力が入ると、優衣が裏返ったような声で鳴く。  その度にマズいところに力を加えているのではと気になり、  力が弱まってしまう。  優衣はその僅かなロスに、体を寄せてくる。  柔らかな体をくっ付けて、俺を虜にさせるように。 【優衣】 「かぷっ。んん……ん……ん~……んはぁあ。  ……ちゅ、ちゅ……ン、ちゅ……は……フ、ちゅ……」 【優衣】 「ちゅ、ン…………はふ……。  ……小さな耳……」  ぼそぼそと小さな声で囁く。 【優衣】 「……んふ、……食べちゃお……。  はぁぁー……んむぅン」 【兄】 「ちょ」  外出中にたっぷりと冷気に冷やされた耳朶。  それが優衣の声と共に食べられてしまう。 【優衣】 「はむ、ぅ……ん、かむはむ……んン、フ……はぁぁぅむ、……ん」  はむはむと噛むたびに鼻を抜ける息が鼓膜をくすぐってくる。  ぞわぞわが妙に心地よく、抵抗を忘れてしまっていた。 【優衣】 「んぅ……? 逃げないの?  逃げないなら……はぁぅむ、ぁむ……む、  ん……ちゅ、っ……んふふ……続けちゃうゾ?」  少し小馬鹿にしたような挑発的な囁き。  ここまでされて黙ってはいられん――! 【兄】 「でい!」 【優衣】 「ん、っ――きゃっ」  驚いた声を出して枕に頭をぶつけた。  胸に覚えていた柔らかさはない。  引いても離れないなら押してみろ。  勢い余って押し倒した形になっても、目的は達成よ。 【優衣】 「…………。  ふふっ、押し倒されちゃったー」 【兄】 「お、押し倒しちゃったー……?」 【優衣】 「……それで? それからどうするの?」 【兄】 「どうするもなにも……」  もう遊びは終わり。  リビングにでも戻ってテレビを見よう。  そう言おうと思っていた。 【優衣】 「……?」  可愛らしく首を傾げる。  両腕は俺の首に回ったまま。  首を寄せられるように感じるのは、単に腕の自重だろう。  じっと目を見つめてくるのは、単に見るものがないからだろう。 【優衣】 「ねえ、兄さん」 【優衣】 「私に囁かれて、耳たぶはむはむされて……興奮したでしょ?」 【兄】 「な……」  突然の言葉に呆気に取られる。  ……いかん。すぐに優衣のペースに飲まれてしまう。  冷静に、冷静に……。 【兄】 「なに馬鹿なこと言ってんだ。さっさと腕どけろ」 【優衣】 「ふぅん……? またそうやって見え透いた嘘を吐くの」 【優衣】 「誤魔化そうとしてもだーめ。  ……こうやって、私が膝を立てれば……」 【兄】 「っ」 【優衣】 「……♪ ほら、かたーいものに当たっちゃった。  これはなーにかーしらー?」  前屈みになっている体勢上、見抜かれることはないと油断していた。  こいつ、一体いつから……。 【優衣】 「私の太腿の動きに合わせて、ピクピクって震えてる……。  もう……、別に……我慢なんてしなくてもいいのに」 【優衣】 「私、兄さんが快感の虜になって蕩けてる顔……好きよ?」  『好き』――  告白の嘘話があったせいか、直接的な単語にどきりとする。 【優衣】 「ほぉら、苦しそうにしてる子は出してあげましょうねー?」  右腕が俺の首から外れ、股座のファスナーを掴む。  ジジジと下げられると、窓の中から逸物を引きずり出される。 【優衣】 「あっ、出てきた……♪  あはっ、もうビンビン……元気なおちんぽ♪」 【優衣】 「澄ました顔をしておきながら、  私の囁き声と唇に興奮してがちがちにしてたのねー?  くすくすっ、兄さんのすけべー」  少し恥じらったように言うから、文句を返すこともできない。  スケベと軽く罵るのに、  手の平で陰茎を撫でてくるギャップに興奮度が増していく。 【優衣】 「……ねえ。今日は……どうする? なにする?  ……兄さんの好きなように要求して」  『好きなように』――  ……優衣がそう言うなら、 【兄】 「……それじゃあ」  手を下に伸ばす。  スカートの中からすらりと伸びる生脚。  素肌の晒された太腿に手を添えると、びくりと震えた。  さらりとした、柔らかくて心地いい手触り。 【兄】 「太腿に挟んでしたい。……いいか?」 【優衣】 「……太腿に、挟んで……?  ううん……? えぇと、どうやるの……?」 【兄】 「だから、こう」  両膝を掴んで、ぐいっと立てる。 【優衣】 「っ、ひゃっ!? っ、ぅぅ……!」  裏返ったスカートを慌てた様子で股座に押し込んだ。  その一部始終を見終え、視線を交わす。 【優衣】 「み……見えた?」 【兄】 「い、いや」 【兄】 「というか、パンツを気にするヤツだったのか」 【優衣】 「む……。  ショーツを見られる恥じらいくらい、人並みには持ってるわよ」 【優衣】 「でも、……んんぅ、そう……ね。  兄さんに見られるのは……、ぅぅ……平気……。  っ、平気じゃないけどっ、……平気」 【兄】 「なんじゃそら」 【優衣】 「こ、この制服のせいよっ。  スカートが捲れれば、  誰だって咄嗟に押さえるに決まってるでしょーよぅ……」  女性が生活する上で必須な条件反射といったところか。  気が緩むはずの家でも、制服をまとっているがために反射が出たと。  ……しかし、いま『兄さんに見せるのは平気』とか言ったな。  聞き流してたが……マジか。 【兄】 「見せても平気と言ってたが」 【兄】 「見てもいいのか?」 【優衣】 「へ。……え? ……ショーツ、見たいの?」 【兄】 「駄目か?」 【優衣】 「ぇ、あ、だって……私の、……妹のショーツよ?  ……それでも、見たいの?」  迷いなく頷く。 【優衣】 「…………また一つ、兄さんの性癖を憶えたわ……」 【兄】 「ほら、手。はよ」 【優衣】 「……はいはい、そんな馬鹿みたいに急かさないで……。  ……ほら」  いざ見せるとなると気恥ずかしい部分があるんだろう。  ばつが悪そうな、複雑な表情を浮かべながら、  優衣はスカートの裾をおずおずと持ち上げた。 【優衣】 「…………」  平気とか言ってたくせに頬を薄紅色に染めてそっぽを向いている。  おずおずとこちらを見上げる仕草も、  狙っているいないは関係なくそそるものがある。 【優衣】 「ほ、ほら……太腿に挟むんでしょ?  そこで馬鹿みたいにおっ立たせてるの、早く慰めてあげなさいよ」  主導権が移動したのを自覚したのか、語気が強めだ。  今までしたことのないことをするのは非常にいい。  なんと言っても、  優衣のどぎまぎした様子や恥じらったところが見れる。  常日頃から小馬鹿にされ、多少なりとも鬱憤は溜まるんだ。  ささやかな復讐劇といこうではないか。  隆起しているペニスを操作し、  ショーツと太腿のスリットに挿入する。 【優衣】 「っ、わっ、ちょ、ちょっ……!  太腿って、そこっ、ショーツに当たってるじゃないっ」 【兄】 「その通りですが、何か問題が?」 【優衣】 「もっ、問題はっ、…………ぅ……うぅん?  ……問題は、ないわね……うん、ちょっとびっくりしただけ……」  身体に入った力を抜く。  いいのか……。  ショーツを介しているが、ほぼ女性器と触れあっているようなもの。  陰茎をぐりぐりと押し付ければ、  シルクの肌触りの向こうに恥丘の柔らかさを感じる。 【優衣】 「…………にいさん?」  不安そうな声にはっとする。  意識しすぎては駄目だ。  このショーツの奥は、禁断の箇所。  見てはならない場所なんだから、  今はただ太腿の付け根の柔らかさを味わうだけに留めよう。  優衣の両膝を合わせ、俺の胸の前に持ってくる。  ひざ裏に両腕を通し、  太腿を抱きかかえるようにして腰を密着させた。 【優衣】 「はは、は……私の脚を、そんな……大事そうに抱きかかえて……。  ふふっ……そんなことしなくてもどっかに行ったりしないわよ」  軽い冗談も、自分の固い表情を柔らかくしようという  気持ちがあってのことだろう。  持ち直すまで待つ必要はない。  早速、優衣の柔肌を味わうことにする。  はやる気持ちを抑えて、ゆっくりと腰を前後に動かす。 【優衣】 「ん……んっ……、いきなり……。  ……せっかちー……、……んフ……はあ……ふ……ふぅ」  【兄】 「早くしろって言ったのはそっちのほうだろうが」 【優衣】 「ん、んんぅ~……っ。  早くぅって言ったのは私のほうだけど……、ん……んフぁ……」  太腿の裏は見事なまでに柔らかく、  腰をぶつければ形を変えてすぐに馴染む。  ぶつけられた優衣は反動で体が動き、その度に呼吸が乱れる。 【優衣】 「ん、……ん……っ、ン……んフ、ぁ……ねえ、あの……  もうちょっと、位置を高くできない?」 【兄】 「位置?」 【優衣】 「ん、はあ……は、……だからぁ……ショーツから浮かせて、  クロッチじゃなくて太腿だけで擦ってくれない……?」  先ほど何の問題もないようなことを言ってたくせに、  早々に代替案を提示してきた。 【兄】 「問題ないんじゃなかったのか?」 【優衣】 「ん、んん……ぅ、問題はなかったんだけど……。  やっぱり恥ずかしくて……。  ね……? お願い……」  隠せるのなら隠したいのか、  左手は執拗にスカートを掴んで離さない。 【兄】 「俺になら見られても平気とか言ってたじゃないか。  コロコロ意見を変えるな」 【優衣】 「んんぅ、ショーツを見られるのは、友達なら着替えのときに……ね。  っ、でも……兄さんには初めてだから……。  やっぱり、少し恥ずかしいし」 【優衣】 「そ、それに……ショーツを触られるなんて……。  まして、クロッチとか……そんなのっ、慣れてるわけないでしょっ、  ぅ、ぅぅぅ~……っ」 【兄】 「触ってはないぞ?」  当ててるんだよな。  優衣の両膝を抱え、  腰だけを器用に動かして太腿にぺちぺちとぶつける。  仄温かく、有り得ないほどの軟性を持った内腿の付け根は、  味わうほどに感動的だ。  ハリのある肌に押し包まれながらショーツ越しの秘部に擦りつける。  扇情的だった。  【優衣】 「ん、は…………はぅっ、ぅ……んン……当たってるぅ……っ、く……」  はっきりと言えば、下着有りの素股は刺激としては弱いものだ。  ただ、自ら腰を動かして秘処に擦りつける様は疑似セックスと  呼べるもので、精神的充足感があった。 【優衣】 「は……は……、っ……あっ! っ、んンっむ」  抽送する腰の角度を変えると優衣が上擦った声を上げた。  口から出た声に驚いたような顔をする。 【優衣】 「っ、あ……あはは、は……。  さすがに……内腿の付け根を擦られると、  くすぐったくて声が出ちゃうわね、え……」  嘘か真か、くすぐったいと表現しやがった。  声の調子がくすぐったいときのそれとは完全に別だ。  それとも、くすぐったさとは違うことを自覚していないのか? 【兄】 「……」  自覚があろうがなかろうが、どっちでもいい。  『ない』なら『ない』で快感を教え込ませるために、  『ある』あら『ある』で白状させるために、  俺はさらにショーツへ押し付ける。 【優衣】 「ん……ぅ、んっん……っ。  はっ……あ、あの……太腿に挟む、って……」 【兄】 「挟んでるぞ?」 【優衣】 「ん、ぅ……あ……、挟んでるけどぉ……なんか、ぅうンっ……、  ぅぅ…………股のほう、に……ショーツに押し付けてない……?」 【兄】 「うん」 【優衣】 「ん、……フぅ……、……『うん』じゃなくて……、  ぅう、んフ……、……押し付ける必要ないでしょー……?」 【兄】 「……柔らかいし」  恥ずかしがるようなことをわざと言ってみる。 【優衣】 「は、……はっ? 柔らかっ、っ……なに、っ!  なに言ってるのよっ! ……ぅぅ、へ、変なことを言わないでえっ」 【兄】 「なんで変なことなんだ? 本音を言ってるだけなんだが……」 【優衣】 「……ん、……んむぅ、むぅぅっ……!  本音であろうとなんだろうとっ、  からかうために言ってるって顔を見たらわかるからっ!」  まあ、ばればれですよね。 【優衣】 「ん、んん、うぅ……もう、これじゃ太腿に挟むんじゃなくて……  股に挟むじゃないのよ……」  もとよりそのつもりだった。  警戒心を生ませないために前回使った太腿を使うと言っただけ。  慌てふためいた姿を見せてくれて非常に満足である。 【優衣】 「くすん……ウソツキ」  とにかく今日の優衣は俺の顔を見てくれない。  眉を寄せたり、手の甲で口元を押さえたりと、  初めての行為に戸惑いが隠せない様子だ。  見慣れない表情も見ていて楽しくはあるが、  今日は別のところも見たいわけで。 【優衣】 「ん、んふ、ぁ…………ん、……ん……ンぁ……はあ……ふ、フぅ」  下着に手を伸ばす。  洗濯籠だったり、干しているところは見たことがある。  だが、視界に入るだけで触ったことはなかった。  逸物では細かな触感はわからない。  腰を掴む要領で下着に触れる。  親指で押し撫でて、他の指で臀部の柔らかさも堪能する。 【優衣】 「はふ……ん、……んぁ……?  なに、……どうしてショーツを触ってるの……っ?」 【兄】 「……いや、どんな手触りかなと」 【優衣】 「は、……はふ……ぅ、ん……ふうん……。  そうね、彼女がいないんだもの……  触ったこともないものね……そっか」  さらさらとした手触りは表地だけだろうか。  デリケートな部分を覆うところだし、そんなわけは……。 【兄】 「…………」  確認してみないとわからない。  指を下着の縁に掛ける。  優衣が息を呑んだのがわかった。  そのまま第一、第二間接まで指を掛けていく。  肌に食い込んだショーツを浮かしていくように、  縁に沿って指を移動させていく。  ただ裏地の肌触りを確認しているだけ。  でも、動きそのものはショーツを脱がそうとしているようにも  捉えられるわけで。  優衣の顔を見る。 【優衣】 「……ふ……ぁ……、は……」  見つめられていた。  腰の動きに合わせて息を吐きながら、眉をキツく寄せた顔で。  視線が合うのを自覚すると、すっとどこかへ逸らされる。  文句はない。  抵抗もなかった。  信頼されているのか、許容されているのか。  そんな気はなかったんだが、  何でも受け入れてくれそうな態度を示されると、  俺も手を進めてしまう。  片手でゆっくりとショーツを下ろしていく。  もともと下着のあった箇所が素肌を表す。  斜めにずれながら徐々に脱がされる。  手が震える。  腰の動きも緩慢になっていた。 【優衣】 「……にい、さん……」  はっとした。  慌てて手を離す。  一気に現実に引き戻されたような感覚。  何をしようとしていた。  優衣を……妹をどうしようとしていたんだ。 【優衣】 「は、はは……ショーツに夢中で、腰の動きが止まってるわよ?」 【兄】 「あ、あぁ」  何事もなかったかのような優衣の言葉に、  ゆっくりと腰の動きを再開する。  腰に引っ掛かった下着の端は裏返っていた。  元の位置よりも随分と低い位置に止まったショーツは歪な格好で  局部を覆っている。  先ほどまで隠れていた肌が眩しく見える。  誰にも見せない箇所の一部。  同じようにショーツに隠された部分は、さらに下にも……  っ、駄目だ! 考えるな! 【兄】 「……っ」  ……と思っても、 【優衣】 「ん、ふは……はふ……ふ……ぁっ、んンっ……フ……フぅ……は」  優衣の軽く上擦った声。  薄く染まった頬。  腰を押し付けるたびに下着越しに形を変える恥丘。  考えずにはいられない。  陰茎は下着越しに優衣の恥部と触れあっている。  前後に動いて刺激している。  優衣の声と火照った顔がそれを物語っていた。 【優衣】 「んっ、はぁ……はふ、ふふっ……どう? 感想は……。  自分で腰を動かしてみて、ぅんっ……はふ……お股で挟まれて、  気持ちいい?」 【兄】 「あぁ……めちゃくちゃ興奮する」 【兄】 「……犯してるみたいで」  言わなくてもいい本音をぶちまける。  どんな反応を示すのか見たかったんだ。  軽蔑されたとしても、  お互いの信頼関係に亀裂は入らないだろうという確信からのものだ。  きっと、『馬鹿じゃないの』と罵って、それで終わり。  そう思っていた。 【優衣】 「あ……う、ん……そうね。  私も……腰を、ぶつけられると……なんだか、兄さんに……。  犯されてる、みたい……かな」  そう言ってはにかむ。  俺の本音は受け入れられた。  受け入れられただけでなく、同感まで得られた。  妹を犯している錯覚を感じながら無心に腰を振る兄と、  兄に犯されている錯覚を感じながら恥部への抽送を受け入れる妹。  考えてはならない未来を予見してしまう。  お互い同じ錯覚を感じながら、その錯覚を受け入れていたんだ。  お互いが受け入れているなら、その錯覚は……  実現してもいいことではないのか―― 【優衣】 「ん……んん……、は……ぁ……ぁ、は……はぁ……っ……ぁふ……」  腰の角度を変えて、逸物の先端をショーツに突き立てる。  クイッと腰を動かし、掬うようにペニスを動かす。 【優衣】 「っ、んっ、ふ、あっ……こら、ぁっ……なにしてるのっ、  ……んフ、挟むって……ぅんンっ、はあ……」  下着の奥はとても柔らかく、突き立てると数センチほど沈む。  掬うように動かすと、柔軟な恥肉がつられて下着と共にずり上がる。 【優衣】 「んっ、むっ……ぁっ、もう、こらぁっ……ぅぅっ……!  ショーツにっ、先っぽを突き立てるなあっ……んっ、あっ……」  何度もそれを繰り返すと、  亀頭の口がショーツ越しに小さな固いものを咥えてくる。  それが嬉しくて、  何度もそれを追い求めて先端でショーツをぐりぐりと擦りつける。 【優衣】 「ぅぅ、ぅ……もう、もぉ……太腿に挟まないならっ、もうやめる!  ちゃんとやって! ぅぅぅ……変なことしないでよ……ぅ」 【兄】 「あー……ごめん」  少しやり過ぎたか。  快感を教え込みたいと思っていても無理やりでは駄目だ。  ましてや、どうすれば適切なのかの情報や知恵もない。  優衣のココを責めるのはまた別の機会にするか。 【兄】 「優衣、もっと脚閉じて」 【優衣】 「んぅ……? 脚を、もっとギュッと……?  あ……兄さんのをギュって挟んであげればいいのね。  うん、わかった……。ぅん、っ……えいっ……ぎゅぅぅ~……っ」 【優衣】 「っ、ぁ……熱い、っ……ふあ……。  くす、兄さんのおちんぽ……がちがちで、すっごく熱いわよ……?」  太腿の柔肉に挟まれているが、  俺はむしろショーツに押し付けて擦りつけるように動いていた。  自らで腰を動かし、性感を高めていく。  これこそが本来の生体として備わった射精への導き方だ。  今まで、ただ機械的に陰茎を刺激して性処理を行ってきた。  性交をするように腰を動かして興奮を高める……  体験したことのない俺にとって、  それはセックスのような心地だった。  まして、ショーツを隔てた奥には優衣の女性器がある。  この中に包まれて射精をすれば、子供が出来る――  そんなことばかりを連想してしまう。 【優衣】 「ん、っ……あっ、これ……動かれるっと……っ、……ゃぁっ……♪」  優衣の口から漏れた可愛らしい音色。 【優衣】 「っ、はっ……むンっ……!  ムグ……っ、っ……! ッ……ぅっ……」  素早い動作で口元を両手で覆った。  押し殺した声には性感の色がついていた。  上擦った声が恥ずかしいってだけで口元を押さえているのか、  それとも……。 【優衣】 「ちょ、ちょっとストッ、プっ……ぅンっ、んっ、っ……ンっ……!」  止まれと言われても、そんな可愛らしい声を出されたら止まれない。  言われた通り太腿に挟んで擦っているだけだし、  優衣としても文句のつけようがないはず。  優衣は俺の動きを阻害しようとしてか、  両脇の下を通っている足を閉じて締め上げてくる。  それでも動いているのは腰だから、  上体をどうしようと腰は止まらない。  それに、無意識か知らないが、  優衣も腰が浮いてペニスにくいくいと押し付けてきていた。  優衣の体が俺を求めている――  その事実に背筋が感動に震えた。 【優衣】 「っ、ンっ……フ、んっ……っ、はっ……ぁっ♪  ふあっ、ぁ……っ、ぅ……あ……はっ……フ、ぅん……っ……っ」  我慢汁に塗れた内腿は抽送のたびにいやらしい音を響かせる。  鈍くぐぐもったような肉と肉の触れ合う音。  何度も優衣を求めるように腰を打ち付ける。  愛しい。  全部を俺のものにしたかった。  首を曲げて、傷一つない綺麗な膝小僧に口づけをする。 【優衣】 「っ、ひゃっ!? ぅっ、っ、なにっ、なにっ、っ……!?  んっ、もう、わけわかんないっ……なんで膝なんかにキスしてっ、  ん、ゃっ……あっ……♪ 激しっ……!」  色あせもなければ、ざらつきもない。  どうしてか優衣の膝が可愛らしく、愛おしく見えた。  顔を動かして余すところなく唇を這わす。  優衣のほうも暴れれば顔面に膝が入ることを懸念してか、  一切の抵抗がない。  なすがままされるがまま。  気をよくした俺は舌でも舐め、腰を乱暴に太腿に打ち付ける。 【優衣】 「ぅンっ! っ、んっ、ンっ……ンはっ、はっ、はふ……うあっ♪  ん、は……は……もうっ、早くっ……終わらせなさい、よぉ……!」 【優衣】 「ん、ひっ……! 舌、したぁ! んンっ、むっ……!  舐めるなあ……っ、あ、はっ……は、はふ……んっ……!」  ぶつかると同時に衝撃が腰に広がり、  じんわりとペニスが快感に包まれていく。   この衝撃が優衣を犯しているようで興奮する。 【兄】 「っ、はぁ……は……そろそろっ」 【優衣】 「っ、っ……はぅ、っ……ん、ぅ? イク……っ?  ぅ、ンっ……あっ、そのまま出したら、スカートがっ」  優衣の言葉に耳を貸せるほど我慢はできなかった。  せり上がってくる白濁液の感覚に腰を動きを速める。 【優衣】 「ちょっと、待っ、て、フっ、んっ、っ、っ、んゃっ、あ、っあ!」  どちゅどちゅと聞いたこともない音が部屋に響く。  こんなのは両親のいる夜にはできない。  今だけ、今だけと念じながら乱暴に腰をぶつける。 【優衣】 「っ、ぃっ、にっ、さっ、ン! はっ、はっ、ぁっ、にい、さっ!  んっ、ふあっ、あっ、にい……っ、さ、っ……ぁ、ぁっ、ぁっ、あ!」 【兄】 「く、ぅっ……!」  びゅるるっ! ビューッ!! びゅくっ、びゅるるっ!  ぎゅっと優衣の両脚を抱き締めて柔肉の中で射精する。  腰を太腿に押し付けながら射精すると、  まるで膣内に注いでいるような錯覚を感じる。 【優衣】 「あぅっ! ぅ、んっ、んっ……! んっ、はぁっ……あ、はフ……。  んっ、……はぁぁ……はぁ……はぁ……もう、人の話を聞かないん  だからぁ……」 【兄】 「ぅっ、く……!」  まだ出る。  決してキツくはないが、優しくしっかりと包み込んでくれる  優衣の太腿は安心感をもたらしてくれる。  優衣の秘処に擦りつけながらの甘美な射精。  今までと違った特別な背徳感があった。 【優衣】 「はぁ……、ん……ちゃんと全部、手の中に収まってる?  ぅ、ン……もう、出しすぎっ。熱いし……どろどろしてるし」  受け皿の形で手の中に精液が溜まっていた。  それでもすべては受け止められず、  放射状に散った精液は手首や下腹部、スカートにまで散っていた。  もちろん、下着にもべっとりと付着している。 【優衣】 「あぁぁ……もう、やっぱりちょっと散ってる……。  うぁ、カーディガンまで……もぉ、どうしてくれるのよぉ……」 【兄】 「す、すまん。めちゃくちゃ興奮して……」 【優衣】 「興奮したからとか、言い訳にならない。  見境なくして……嬉しそうな表情で無心で腰動かしちゃって……、  私はそこを非難してるの」 【兄】 「……すんません」 【優衣】 「もう……、……ん。……っ、んっ?」  体を起こそうと足を動かした優衣の表情が変わった。 【優衣】 「あれ、なにこれ……、ん……」  眉を寄せ、困惑を顔を浮かべて足を動かす。  膝をすり合わせるような動作。 【優衣】 「え……まさか」 【兄】 「……どうした」  我慢ならずに訊いた。 【優衣】 「へっ? あっ、ううんっ! なんでもないっ! はは……。  ……あー、私っ、手あらってくるわね。  っ、……そそそれじゃっ」  追及の隙も見せず、脱兎のごとく逃げていった。 【兄】 「……はてさて」  …  ……  …  一方、そのころ優衣の部屋。 【優衣】 「はぁ……はぁ……はぁ……、ふぅ……ふ……」  恐る恐る、スカートの中へ手を伸ばす。  さっきまで兄さんのが乗っかっていたところ……。  その面積をはるかに超える広さが、ひんやりとしていた。 【優衣】 「嘘……うそぉ……」  カウパー液がこんなところに付着するとは思えない。  ショーツの下腹部を覆う箇所には兄さんのと思しきぬるりとした感  触。  明らかに外部から与えられたものだ。  でも、始めに触れた部分に形成する冷たさは……外部からではない。  手で触れる感触よりも、ショーツの内側から感じる冷たさが強い。 【優衣】 「……これって、あれよね。あい……え、き……とかいう」 【優衣】 「まさか、今さっきので……私……、興奮……した?」  兄さんのに、ショーツの上から擦られて……  兄さんに犯される連想をして…… 【優衣】 「っ、ぅ……ぅぅっ、ぅぅぅ~~~~っ!」  とてつもない恥ずかしさを自覚する。  興奮してしまった!  兄さんに愛撫されて! 【優衣】 「兄さんに……バレてない、わよね?」 【優衣】 「バレてたら……、うぅっ……ぅぅぅ~~っ!  顔合わせられないわよぉ……」  うぅ……、恥ずかしさでどうにかなってしまそうだ……。