おまけ「優衣・その2」
◆おまけ・その2
「とある深夜での優衣・その2」
…………
規則正しい呼吸。
しばらくそれを子守唄のように聴いて、ゆっくりと目蓋を上げる。
【優衣】
「…………。兄さん……?」
肩の上へ、そっと手を運ぶ。
【優衣】
「胸式呼吸…………。うん、大丈夫。寝てる」
【優衣】
「くすっ。……よいしょっ、んふふ……。
無防備な顔……安心しきった顔……」
【優衣】
「……大人びた……かお……」
顔に手を添え、親指で頬をゆっくりさする。
【優衣】
「人は変わっていくものね。
……まあ、中身はそうそう変わらないものだけど」
【優衣】
「……、今晩も……失礼…………ちう」
変わらず、頬へのキス。
決して起こさぬよう、細心の注意を払いつつの行為。
【優衣】
「……こう同じことを続けていると、
時として、刺激を欲するものね」
例えば、兄さんに気付かれてしまう、とか。
どんな反応をするだろうか。
拒絶されるだろうか。
喜ぶ姿というのはまるで想像できない。
そういう意味では、代り映えはしないだろう。
【優衣】
「刺激、か……」
……先日の出来事が目に浮かぶ。
下着の上から兄さんに擦られたあの日……
【優衣】
「…………ん、……っ……ぁ……。まただ……」
鈍く重い、じんわりとした感覚がお腹の奥で広がっていく。
この前、兄さんに反応してしまってから、
兄さんの傍でアレを思い出すと……体がヘンなのだ。
体の中に潜む感覚は外部からの刺激ではどうにもならず、
ただただ足を閉じてもじもじするしかない。
【優衣】
「うぅぅ……、どうしちゃったんだろう……。
……すんっ、すんっ……。っ、っ……ふぁぁ……ぁ」
抱いた腕に顔を寄せて、匂いを嗅ぐ。
無意識の行動。
体が求めていることを自然に行っているのだろう、
匂いを嗅いだ先にあるのは、体の悦び。
ぐぐっ、ぐ……と、お腹の奥が痙攣する。
その感覚がクセになって、やめられない。
【優衣】
「兄さんの匂い……すん、すんっすんっ……。
んっ、ッ、はぅっ……はぁぁ……ぁ……っ」
【優衣】
「……なんで……。んん、ぅ……兄さんの匂いが……ぅ、ンッ……!
ふはっ、はっ……はっ……は……ふ、ぁ……」
【優衣】
「……今までこんな感覚なかったのに……、
……すんすんっ、ンはっ、はふ……ふ、っ……~~っ♪」
兄さんの匂いが鼻腔を抜けて、
全身にぞくぞくとした感覚として広がる。
思考能力が低下していくのがわかる。
ただ、匂いを嗅ぎたい。
ただ、お腹の奥がぞわぞわっとなる感覚を味わいたい。
それだけしか、もう考えられない。
【優衣】
「兄さん……? ん、はぁ……ごめんなさい……」
なぜかわからないけど、口から謝罪の言葉が出た。
申し訳ないという感情自体はあった。
でも、どうして申し訳ないと思ったのか……
【優衣】
「ん、っ……あ……やっぱり、濡れてる」
パジャマの中、ショーツの上からクロッチをなぞった。
指先に感じる生温かな液体。
あの時にショーツを汚していたものと同じ。
私自身から分泌された粘液。
【優衣】
「……汚い、けど」
触らずにはいられない。
あの時に兄さんにされたように、クロッチの上から局部を押す。
中指と薬指を立てた指が柔らかさに沈む。
【優衣】
「すぅ……はぁ……は、ぅっ! んっ……!」
ピリピリっときた。
けど、まだ弱い。
あの時はこんな感じじゃなくて、もっとこう……。
【優衣】
「……下から掬うようにして、っ……はぅっ!
ンっ、っ……っ」
甲高く出た声を慌てて堪える。
そうだ、こんな感じだった。
記憶を頼りに手を動かしていく。
兄さんがどういうふうにしたか、
どこを触れられると一番ビリビリときたか。
兄さんのペニスの形は、兄さんの体は。
兄さんの顔は。
兄さんの声は。
兄さんの……
あの時のことを思い出しながら股の間を刺激する。
【優衣】
「はあ……ぁ、ぁっ……は……ん、っ……ンっ、ぅ♪
ンはぁ……は、……これ、
……はう……きもちぃぃ……すぅ、んっ」
指を押し付けたまま左右に振る。
どんどん指が沈んでいく。
気持ちいい範囲も広がっている。
ショーツの中はどんな感じになっているんだろうか……。
【優衣】
「はぁ……は……、んく……は……ちょ、直接……直接だと、
どうなるのかしら」
あの時でさえショーツ越しだった。
障害物を通しての刺激は加えた力よりも低減される。
細かな刺激も分散されるため、指の表面の感覚も伝わらない。
じかで触れば、指の細かな凹凸も感じられる。
きっと、兄さんのペニスだって、直接のほうが……
【優衣】
「ん……、……すこしだけ……。
だから……」
『――許して』
誰に向けたのか分からない謝罪を胸の中で呟いて、手を差し込む。
茂みを避けて進むと、すぐに届いた。
あまり丹念に触れたことのない場所。
今まで自分で触ってきた時間よりも、
あの時に兄さんに触れられた時間のほうが長いかもしれない。
そう思えるくらい、機械的にしか触れることのなかったところ。
【優衣】
「んっ、フ……ぁ、……トロトロ……。
……んっ、っ……んっ――!」
割れ目に指をつぷっと入れるだけで腰が引けた。
間になにも介していない刺激。
一瞬、恐怖も感じた。
でも止めることはできない。
【優衣】
「っ、はっ、ぁ……ぁっ、これっ、これぇっ……すごっ……♪」
【優衣】
「んっ、ン、ふ……はっ、はっ…………っ、すぅぅ……っ。
ンっ、っっ、っ! っ、ふあっ、は、ぁぁ……っ♪」
兄さんの匂いを嗅げば気持ちよさが倍増される。
ドラッグみたいと思った。
割れ目をなぞると、びりっ、びりっと電気が走る。
その電気はお腹の奥のほうに走り、
何やら重たい感じのソレを刺激する。
声は出ないものの、優しい抱擁感のあるような深い快感。
この正体はなんなんだろう。
この奥にある、このナニかは一体。
【優衣】
「はぁ、は……ふ……ぁ……ぁ……」
ここを直接刺激することができたなら、
一体どれほどの快感になるのだろう。
どれほど心が満たされるのだろう。
幸せになるのだろう。
……確かめてみたくなった。
【優衣】
「ナカは……っ、う……ぅぐっ! いたっ……!」
気持ちよさの中に突然痛みが走る。
痛みの正体には心当たりがあった。
人間とモグラにしかないとかいう、処女の証。
純潔を守っているがゆえに確かめることができない。
【優衣】
「っ……ダメ、……届かない……。
奥が……この、奥がっ……うずうずするのに……っ」
【優衣】
「私じゃ……痛みが勝って、できない……」
【優衣】
「私じゃ……私の、指じゃ……」
じゃあ、誰ならできる……?
【優衣】
「…………兄さん……。
……兄さん。
兄さん……っ、兄さんっ……!」
【優衣】
「兄さんなら……、兄さんならっ……この疼きを、止められる……?
兄さんなら……兄さんの、ならっ……私の、奥まで……っ」
想像する光景に頭がくらくらしてくる。
酷く一方的で独りよがりな欲求。
利己的な私を、兄さんはどう思うだろうか。
優しい兄さんのことだ、
私が言いくるめれば要望にはきっと応えてくれる。
……でも、そんなことはしたくない。
兄さんの意思を無視したことなんて、したくない。
だって、そんなことをさせてしまったら、きっと兄さんは私を――
【優衣】
「っ、ふぐ……っ! にい、ざっ……! にいさ、っん!
はぁっ……、はっ……! ぅっく、っっ、にっ、さ……っ!」
【優衣】
「ぅぅっ、ぐ、……来る、来るっくるっ、ぅぅ~~っ……!
ぬ、むぐ、ぅぅっ、ぅぅぅ……っ!」
泣き堪えるような声が出る。
全身の筋肉が収縮して、一気に震える。
未知なる感覚。
手放しそうになる意識を寸でのところで捕まえる。
【優衣】
「っ――! くぁ、はあっ……! はっ、……ぅ……ぁっ……、
は、ぁ……はぁ……、はあ…………はぁ……ふ……」
手をキツく握って、呼吸を整えるのに努める。
気付いたときには、兄さんのパジャマは伸び切っていた。
【優衣】
「はぁ……今の……。
今のが……絶頂……? 兄さんと同じ……。
私も……兄さんみたいに…………興奮、して……」
回らない頭でどうにか繋ぎ繋ぎに言葉を出す。
誰に聞かすわけでもない自問自答。
兄さんが深い眠りについていることを確認していなければ、
こんなことはできない。
【優衣】
「私、もしかして……、……兄さんがほしいのかしら……。
…………兄さんに、……愛して、もらいたいの……かしら」
【優衣】
「……私は、妹……。兄さんの……妹。
愛し合う、なんて…………許されない。許してくれない……。
わかってる……わかってる、けど……」
【優衣】
「……心では、わかってるのにっ……どうしてっ……」
【優衣】
「好きじゃない……好きなんじゃないっ……。
好きになっちゃいけないっ! すき……好きじゃないの……!
私はっ、兄さんを好きになんて! …………なって、ない……」
意志を口に出すのに、晴れない心。
胸の内でもやもやとした真意は、
いくら吐露しても吐き出されていくことはなく、
嘘偽りを口にしているのを物語っていた。
頭と心が一致しない。
いや、違う……これは、心と体が一致していない……?
【優衣】
「…………ねえ。すき、って……こういうこと……?
心で納得できなくても、体が求める、って……そういうこと……?
……はは、ははは…………そんなことって、ある……?」
これじゃ、自由意志の否定だ。
人間としての尊厳を自ら損なうことになる。
……いや、知識としては自由意志など存在しないことは知っていた。
でも、よりにもよって……
こんなときに気付かなくてもいいでしょう?
せっかくの『初恋』を、『許されない恋』と気付かされるなんて。
駄目とわかっていても、
自分の意思を自由にすることもできないなんて。
一体、何のために意識があるっていうのよ……。
【優衣】
「……兄さん……私は、どうしたらいいの?」
【優衣】
「兄さん……」
【優衣】
「…………助けて……」