はじまりは河川敷
土手に来た二人
ナナ狐 「ここにシートを敷くから、座りましょう」
ナナ狐シートを敷きはじめる
ナナ狐 「突然呼び出してデートって言ったのに、こんな土手に連れてこられて不服かしら?」
主人公 「いや、別に(変ではあるけど)」
ナナ狐 「そう、よかったわ……んしょ。あなたも座りなさい」
主人公座る
ナナ狐はじっと土手を見ている
ナナ狐 「……」
主人公 「……」
ナナ狐 「…………」
ナナ狐 「………………あぁ、ごめんなさい。あなたは退屈よね……じゃあ膝枕でもしてあげるわ」
主人公 「いや、いい……」
ナナ狐 「狐縛り……遠慮しないで?一応はデートなんだから……ほら、いらっしゃい」
主人公が狐手繰りで無理やり膝枕される
ナナ狐 「ん……これで少しは楽しんでもらえるかしら?」
主人公 「……(恥ずかしい)」
ナナ狐 「……」
ぽつりとナナ狐が語り出す
ナナ狐 「……恥ずかしがったままでいいから、私の話、少し聞いてくれるかしら」
主人公 「……」
ナナ狐 「この土手はね、小さい頃によく遊んだ場所なの……セイ狐姉さんに連れられてね」
主人公 「セイ狐……?」
ナナ狐 「聞き覚えある名前でしょ?セイ狐姉さんはあなたのクラスの担任よ。つまり妖務省の職員……
セイ狐姉さんも妖狐で年下の私達5人の面倒を見てくれたわ……時々こうして土手に遊びに連れて来てもくれたの」
ナナ狐 「小さい頃は変化も長く保てなかったら夕方のほんの短い時間だけど、私以外はみんな仲良く
遊んでいたわ……」
主人公 「ナナ狐はどうして……」
ナナ狐 「私?私は……上手く馴染めかったの……あの時は友達なんて一生出来ないって、そう考えて
いたわね……くす……懐かしい……だからね、みんなの輪に入れない私はあそこの橋の下で時間を潰していたわ」
主人公 「ナナ狐……」
ナナ狐 「そんな顔をしないで、そのおかげで私は運命に出会えたんだから」
主人公 「もしかして……」
ナナ狐 「……そう、エロマンガ。橋の下によく落ちていたのよ……小さかった私は興味だけで読んで
いたけど、何となくいけないものだというのはわかったわ……それでも、私にはとても魅力的に映ったの……かわいいキャラクターに引き込まれるシチュエーション……まぁ当時はそこまで考えていなかったけど……読んでいる間は夢中になれた……寂しくなかったの」
ナナ狐 「それが私とエロマンガとの出会い……もっと語ってもいいけど本題に入れないから
この辺にしておくわ」
主人公 「本題……?」
ナナ狐 「そう、本題。今日ここに来たのは自分の気持ちを確かめるため……
もう一度ここを見たかったの……こうしてあなたと」
主人公 「そ、それって」
ナナ狐 「ずっと胸に秘めていた事があるの。聞いてくれるかしら?」
主人公 「お、おう(も、もしかしてこれって)」
ナナ狐 「私ね……だめ、いざとなると恥ずかしいわ……ま、待って」
頬を赤らめるナナ狐
主人公 「あ、あぁ」
ナナ狐 「はー、ちゃんと言うから……あなたに聞いてほしいの」
ナナ狐 「わ、私ね……じ、実は……」
ナナ狐 「実は……プロのエロ漫画家になりたいの!」
主人公 「……」
ナナ狐 「……」
主人公 「ぷっ……」
ナナ狐 「!?今笑ったわね……狐手繰り……どこで裸踊りしたい?」
主人公 「ち、違う……この流れは告白されると思ったから……それに最初からプロ目指してると思ってた」
ナナ狐 「違う……この流れは私が告白すると思った……そ、そんな訳ないじゃない……
なんで私があなたなんかと……自惚れないで……ばか……え」
ナナ狐 「最初からプロを目指していると思ってた……あなたはどう思う?やっぱり可笑しいかしら」
主人公 「そんなことないと思うぞ」
ナナ狐 「……女でましてや妖狐なのよ?……それに……」
主人公 「それに?」
ナナ狐 「それに妖狐の私には恋愛の本質はたぶん理解出来ないわ……だからね。どんなにいいマンガを
描いてもきっと人間の描いたものには届かない……あなたがヌけないって言った意味少しづつ分かってきたの」
主人公 「……そんなことない!ナナ狐は真剣じゃん。女も妖狐も関係ないと思うぞ……きっとできる」
ナナ狐 「そんなことない……私が……真剣なら……女も妖狐も関係ない……きっとできる……
本当にそう思ってくれるの?」
主人公 「あぁ、俺は信じてる」
ナナ狐 「そう……私、今でも自信がないわ……でもね……あなたが信じてくれるなら私……ふふ、
少し騙されてみるのも悪くないわね」
ナナ狐 「ねぇ、今描いてるマンガを賞に応募しようと思っているの……締め切りはあと10日、
丁度あなたの手伝い期間と同じ……大分苦しいスケジュールだけど……協力してくれるかしら」
主人公 「それが俺の役目だろ」
ナナ狐 「くす……そうね。それがあなたの役目……だったわね」
ナナ狐 「改めてよろしく頼むわ……助手さん」
主人公 「こちらこそ」
ナナ狐 「ありがとう……話を聞いてくれてうれしかったわ」
ナナ狐が初めて自然体で主人公に微笑みかける。
主人公 「……(あのペンギンに向けるのと同じ笑顔だ……)」
ナナ狐 「な、何よ……人の顔をじっと見て……あんまり見つめないで……恥ずかしいわ……え……
私が縛ってるから……そうだったわね……はい。解いたわよ」
ナナ狐 「じゃあ早速部室に帰ってネームの追い込みしましょうか……でもその前に……
実はサンドイッチ作ってきたの……もう少しだけささやかなデートを楽しみましょう」