02
よく晴れた平日の昼下がり。
私はさっきまで、お昼ご飯を食べていた。
夫に作ってあげたものと同じお弁当。
ご飯の量は少なめ。
年甲斐もなく可愛らしいお弁当箱に入れてあったそれを、
夫とは違う男の人の家、そのリビングで食べていた。
彼が淹れてくれたお茶を飲みながら一緒に食べて……そして今、リビングに隣接した和室に敷かれた布団の上で、下着姿になっている。
彼とお茶をするようになってから、いつもこうなることを期待していた。
だから、下着はいいものを着けている。
恥ずかしくはない……この胸の高鳴りは、性の悦びへの期待感からくるもの。
彼はもう全裸だ。
その男性器は雄々しく立ち上がり、時折ビクンビクンと脈打っている。
夫のモノと比べて少し大きいだろうか。
けど、驚くほどのサイズではない。
ただ、夫以外の男性器をみるのは初めてなので、
興味はあるけれど、まだ直視することはできなかった。
……体つきは良い。
やや貧弱な夫に比べて筋肉質だ。
身長は彼の方が高いので、その筋肉と相まって威圧感がある。
週に三回はスポーツジムに通っているとのこと。
男らしい、という言い方が似合う素敵な体だ。
私も少しくらいは運動をした方がいいのだろうか……。
肥えてはいないつもりだけど、
Fカップある乳房は、放っておくと将来垂れてしまうかもしれない。
揉む方としても、張りのある乳房を好むだろうし……。
ほとんどの男性は大きな乳房を好むと、中学時代には知っていた。
その頃から大きかった胸を見られることが多く、男性に対して嫌悪感を持つこともあった。
そんな中、夫は胸ではなく私の人柄を見てくれたので、結婚するに至ったわけだけど……。
紳士的だと思っていたそれは、性への興味の薄さでしかなかった。
私も夫に合わせるかのように、自分は性欲が薄い方なのだと思うようになっていた……つい、最近までは。
でも、違った。
子どもが欲しいからと退職して専業主婦になり、夫婦の営みを増やすにつれて、私には性欲があるのだと知った。
強い性欲があったのだ。
だから、夫とのセックスに満足できたことはない。
だから、なのだろうか。
出会って間もない男性と、こんなコトをしているのは……。
昔、好きだった人の面影があるから……すぐ近くに住んでいて、気軽に話せる人だから……。
そして。
寂しさと暇を埋めてくれて、淡い好意を真剣に受け止めてくれたから。
私は今、夫以外の男性の前で肌を晒している。
どんなセックスをしてくれるのだろうと、期待して興奮している……。
セックスといえば、夜の暗い部屋でしかしたことがなかった。
けど今は、明るい日差しが入り込んでいる。
彼の健康的な体が、肌が、私の目を捕らえて放さない……彼の目も、私を突き刺す。
……興奮している。
今にも襲いかかりたい気持ちを抑えて、紳士的に振る舞ってくれているのがわかる。
けど、その気づかいはいらなかった。
私が欲しいのは、性の強い快楽なのだから。
私は自らブラジャーを外し、ショーツを脱いだ。
彼が息を呑んでくれる。
興奮してくれているのが嬉しくて、しなを作ってみせる。
……ふと、女性器が潤っているのに気付いて感動する。
まだキスしかしていないのに。
服の上から胸をさわられて、服を脱ぐところを見せて……裸になっただけなのにもう、ヴァギナがペニスを受け入れる準備を整えていることに驚いてしまう。
だけどまさか、その股間を見せつけるわけにもいかない。
早く挿入して欲しいなどと言うことはできない。
セックスがしたいからといって、まだそこまで破廉恥にはなれない……。
そんな私の思いに気付いたわけでもないだろうけど、さすがにいつまでも見つめているだけというわけにもいかなくなったようで……彼が、キスをしながら私を布団に押し倒した。
またも濃厚なキス。
舌を絡ませ、唾液を与え合い、息が詰まるまで唇を押し付け合う。
全裸の体が触れ合い、お互いの熱を感じ合う……彼のそそり立った男性器が触れるのがこそばゆく、
そして、怖い。
一度触れると、彼は遠慮なくペニスを擦り付けてきた。
太ももに、下腹部に、熱を帯びたペニスが押し付けられる。
……乳房を揉みしだき、乳首に吸い付いては舐める。
両の乳房の間に顔を埋め、頬でその柔らかさを堪能する。
あぁ、男の人は本当に胸が好きなのだな……そう思うとなんだかとてもおかしくて、愛おしい気持ちになった。
だから、頭を抱いた。
もっとオッパイを堪能して欲しい。
そう思って、後頭部を抱き締めて、胸に押し付ける。
私の思いを察するように、乳首に吸い付いて甘噛みし、舌先で転がしてくれる。
あまりの気持ち良さに、喘ぎが漏れる。
乳首は驚くほどに勃起していて、彼の唇が、舌が、はっきりと感じられた。
唇ではなく、歯で甘噛みされると体が勝手に跳ね上がった。
下乳を揉み上げながら乳首を愛撫されるのが特にいい。
オッパイだけでもこんなに感じられるのか……夫とのセックスで、オッパイを気持ち良くしてもらったことはない。
今までなんてもったいないセックスをしていたんだろう、と悔やまれる。
乳房からもたらされる快感と、セックスへの期待感からか、クラクラし始めていた。
喘ぎすぎて酸欠になっていたようで、彼が苦笑しながら頬を撫でてくれた……恥ずかしくて、こそばゆい。
羞恥、期待、快感、不安、興奮、官能……まるで処女に戻ったかのような気分。
だけど私は、もう処女ではない。
それどころか結婚もしていて、今、夫と子作りに励んでいる最中。
ゆうべも夫とセックスをした。
けど、挿入から射精までの時間は、彼にされている前戯よりも短い時間だっただろう……。
今、私の体は、キスと胸への愛撫で蕩けきっている。
夫とのセックスでこんな官能を得たことはない。
ここまでだけでも、彼のセックスの方が素敵なのだとハッキリしている。
だけど、本番はここから……もう、彼も我慢の限界であるはず。
早くして欲しい。
もう、本当のセックスをして欲しい。
あぁそうか……最初に私からの許可を得たように、挿入にも私の許可が欲しいのかもしれない。
ズルイ人だ……だけど、それでもいい。
来て?
とねだった声に、彼は大きく頷いた。
そしていつの間にか用意していたコンドームを手早く装着する……付けなくてもいいのに……そんなことを思ってしまった私を、強い罪悪感が襲う。
だけどそんな殊勝な気持ちは、膣口に当たった彼の先端で掻き消された。
自ら肉棒を持って、亀頭で私の谷間を撫でる。
膣口を、クリトリスをペニスで撫で、こすり、愛液を絡ませていく。
それが焦らされているかのようで、私はまた挿入をねだってしまった。
……なんてはしたないのだろう。
夫には、こんなおねだりをしたことがないのに。
羞恥に歪む私を見つめて来る彼。
行くよ……その囁きと共に、熱いモノが挿入された。
本当に熱い。
ペニスは、こんなにも熱いものだっただろうか。
私は声を抑えることができず、甲高い声で喘いでしまった。
自分の声に驚いてしまって慌てて手で口を塞ぐ……けど、その手は彼によって引き剥がされてしまった。
そして両手を押さえ付け、指を絡ませてくる。
恋人つなぎだ……感動と官能が同時にわき上がる。
私が落ち着いたのを見て、彼はゆっくりと腰を動かし始める。
引き抜かれて行く時の喪失感で、本当にセックスをしているんだと感じられた。
そしてまた、すぐに押し込まれる……。
心地好い圧迫感が下腹部を襲い、吐いた息が喘ぎになる。
しばらくの間、ゆっくりと引き抜き、ゆっくりと差し込んだ。
ペニスの熱さや硬さ、長さが感じられる。
彼も、私の膣内を感じているのだろう。
そういえば、彼はこれまで何人の女性と寝たのだろう……これまで独身だったのには、何か訳があるのかしら。
この手を握った女性は?
このペニスを入れられた女性は?
私は何人目?
そんなことを考えるのは無意味でしかない。
私は今、彼のペニスを受け入れているのだから。
夫以外、誰も入ったことのない膣内。
私にとっては二人目の男性……。
そして、初めての不倫。
夫を裏切ってしまった罪悪感に、セックスの快感が覆い被さる。
不貞行為であることが、性の熱をより高めていく。
次第に早くなる腰の動きに合わせて、私の喘ぎも強くなっていった。
夫が黙ってセックスをするから、私も静かにしていた。
でも彼は違う。
気持ちいいのかを訊いてくる。
大きなオッパイを褒めながらしてくれる。
唾液を美味しいと言って呑んでくれる。
腰の動きは激しく、これまで感じたことのない勢いで攻め込まれる。
まるでハードなスポーツだ。
これなら喘いでもおかしくはない。
気持ち良さを、はっきりと語ってもおかしくない。
破廉恥極まりない体位。
力尽くで攻め込まれ、男らしさを味わわされ。
快楽のありかを尋ねられる。
膣を襲う快楽の波に翻弄され、乳房と乳首をもてあそばれる。
激しい、不倫セックス。
しかもまだ日が高い時間。
夫は会社で午後の仕事を始めているだろう。
それなのに、妻の私は他の男のペニスを喜んで受け入れている。
夫とのセックスよりも気持ちいいと叫んでいる。
あまりの快楽に時間の経つのを忘れていた。
愛撫が始まってから、挿入されてから、一体どれほど経っているのだろう……わかるのは、甘い疲労感でもう喘ぐことさえ辛くなってきたこと。
それを察してくれたのか、彼が終わりを告げる。
でも本当は、まだ続けて欲しかった。
もっともっと気持ち良くして欲しかった。
けれど、もうろれつが回らないほど蕩けてしまっている。
だから私は、コンドームを着けていることも忘れて中出しをねだった。
彼に離れて欲しくない一心で、夫以外の精液を本気で望んだ……そして、彼は頷いてくれた。
瞬間、強烈な痺れが全身を襲う。
それが絶頂なのだと知らないまま、強い多幸感に身も心も満たしていった。
まるで宙に浮いているかのような気分。
眠っているのか起きているのかさえわからないまま、その官能を味わう。
次に気付いた時、目に飛び込んできたのは彼の笑顔だった。
そして、キス。
甘い温もり……私は、目頭が熱くなるのを覚えた。
……涙だった。
けれど、その意味がわからない。
不貞への罪悪感……幼い頃に散った恋心……気持ち良すぎたセックス……あるいは、自分でも気付かない何か。
彼は私の涙を見ても動揺したりせず、優しく頷いてくれる。
それがまた、涙を誘う。
わかっているのは、この不倫はまだ始まったばかりだということ。
彼ともっともっとセックスをしたいということ。
……私は、本当はとてもふしだらな女だったのだということだ。