尋萌~ビンタ
さて。
キミは見たところ、日本人のようだが、まずは名前を聞かせてもらおうか。
名前は?
(ビンタする音:ビシ!)
答えなければ、こうやってキミの頬を打たせてもらう。
どうだい?
名前ぐらいは教えてくれてもいいだろう?
(ビンタする音:ビシ!)
ふふふ。
(ビンタする音:ビシ!)
名前は?
(ビンタする音:ビシ!)
名前は?
(ビンタする音:ビシ!)
Ihr Name?
(イア・ネイム?:名前は?)
(ビンタする音:ビシ!)
Ihr Name?
(イア・ネイム?)
(ビンタする音:ビシ!)
Ihr Name?
(イア・ネイム?)
(ビンタする音:ビシ!)
(ビンタする音:ビシ!)
(やや間)
所属は?
(ビンタする音:ビシ!)
飼い主は?
(ビンタする音:ビシ!)
何とか言ったらどうだ?
(ビンタする音:ビシ!)
(ビンタする音:ビシ!)
(ビンタする音:ビシ!)
言葉ぐらいは喋れるだろう?
(ビンタする音:ビシ!)
(ビンタする音:ビシ!)
(ビンタする音:ビシ!)
ふふん。
なかなか強情なヤツだな。
まぁ、その方が可愛がり甲斐があるというものだ。
キミみたいな口が堅い男は、私のタイプだ。
キミの持ち物を調べさせてもらった。
プライバシーの侵害などと言わないでくれよ。
これも、私の仕事なのでな。
で、このパスポート。
これによると、キミは日本人で、名前は・・・。
『田中 太郎』。
くくっ。
よくある名前じゃないか。
『田中 太郎』・・・。
もうちょっと捻った名前を付けようと思わなかったのか?
よほどの面倒くさがりか、それともバカなのか。
(ビンタする音:ビシ!)
(囁き声で)
お前は、どちらだ?
ミスター田中。
・・・くっ!
(ビンタする音:ビシ!)
本当に強情だな、キミは。
私が呼ばれる訳だ。
(ビンタする音:ビシ!)
私はね、お前のような男をいたぶるのが大好きでね。
ここからは、お前が喋ろうが関係ない。
徹底的に可愛がってやるからな。
(ビンタする音:ビシ!)
嬉しいだろ?
(ビンタする音:ビシ!)
どうだい、スパイ君?
(ビンタする音:ビシ!)
嬉しいんだろ?
(ビンタする音:ビシ!)
そうだろう?
(ビンタする音:ビシ!)
(ビンタする音:ビシ!)
(ビンタする音:ビシ!)
(ビンタする音:ビシ!)
おやおや。
キミの頬、真っ赤になっているぞ。
これはさぞかし痛いだろうな。
ん?
どうだ?
(ビンタする音:ビシ!)
おいおい、返事ぐらいはできるだろう?
イエスかノーか。
(ビンタする音:ビシ!)
私の日本語が分からないのか?
では、ドイツ語ならどうだ?
(ビンタする音:ビシ!)
Ja oder nein?(ヤー オーダ ナイン?・イエスかノーか?)
(ビンタする音:ビシ!)
Ja oder nein?(ヤー オーダ ナイン?)
(ビンタする音:ビシ!)
Ja oder nein?(ヤー オーダ ナイン?)
(ビンタする音:ビシ!)
(ビンタする音:ビシ!)
(ビンタする音:ビシ!)
・・・やれやれ。
こんなに口が堅いヤツは初めてだよ。
ふふ、褒めてやるよ。
だが・・・。
(ビンタする音:ビシ!)
(囁き声)
私は、キミのような男が大っ嫌いでね。
(ビンタする音:ビシ!)
(囁き声)
虫唾が走るんだよ。
(ビンタする音:ビシ!)
(囁き声)
さっさと喋ってくれないか?
(ビンタする音:ビシ!)
(囁き声)
どうだね?
(ビンタする音:ビシ!)
(ビンタする音:ビシ!)
(ビンタする音:ビシ!)
ふうむ。
困ったものだね、キミは。
こう見えて、私も結構忙しくてね。
今夜はオペラを観に行くことになっているので、あまり時間が無いのだよ。
手こずらせないでくれないか?
(ビンタする音:ビシ!)
今夜のオペラは、ヴェルディのリゴレットだ。
知っているかね?
(ビンタする音:ビシ!)
私は数あるオペラの中でも、この作品が一番好きでね。
あの美しく、刹那の悲劇。
(ビンタする音:ビシ!)
どう思うかね、スパイ君?
(ビンタする音:ビシ!)
あの作品は陰惨で嫌いだと言う人もいるが、人生とはハッピーなこともよりも、
むしろ苦難の方が多いと思うが、どうだね?
私は現実主義なのでね。
ハッピーエンドな物語は、馬鹿馬鹿しさを感じて失笑してしまうのだよ。
くく。
そう。
人生とは痛みなのだよ。
(ビンタする音:ビシ!)
(ビンタする音:ビシ!)
(ビンタする音:ビシ!)
(ビンタする音:ビシ!)
痛みこそ、人生。
(ビンタする音:ビシ!)
そう思うだろう?
(ビンタする音:ビシ!)
(囁き声)
はぁ・・・。
スパイ君は、今、人生そのものを感じている訳だな。
ふふふ。
(ビンタする音:ビシ!)
さて。
どうもキミは無口なようだな。
しかし、コミニケーションとはお互いの会話で成り立つものだ。
このまま、私のお喋りだけというのは味気ないのでな。
ちょっと方法を変えて、キミとコミニケーションを
取ろうと思うんだが・・・。
どうだね?
まぁ、イヤだと言われても、やらせてもらうんだがね。
(部下に向かって)
おい、こいつの服を剥ぎ取って立たせろ。