Track 2

『一緒に買い物? 私に服なんて必要ありません!』

 またしばらく経って、足の怪我が完全に治って……その翌日。  あの人間は、朝から部屋を訪ねてきて、私を外に連れ出しました。  あの。大丈夫なのですか。私と一緒に、街を歩いて。  ……確かに、私はローブのフードを被っていますから、エルフだということは、一目では分からないとは思いますが……。  でも、万が一ということも、あるでしょう。  ……別に、あなたを心配しているわけではなくて。  あなたの家に、“ダークエルフが住んでいる”などと噂されたら、住みづらくなるでしょう。お互いに。  大体、どこに行くのですか。  ただの買い物なら、私を連れ出さなくてもいいのでは。  ……やはり、私のことを……売り飛ばすつもりですか。  あ……到着したのですか。ここが目的地?  ここは……服屋ではないですか。  あなたの服を探しに? 違うのですか。  ……私の? なぜ、ですか?  私は、別に、最低限の衣服は身に着けています。今着ているこの服だって……まだ着られます。  ……嫌、というわけではありません。混乱しているだけです。  大体、服なんて買ったら、店員に私がダークエルフだと分かってしまうではありませんか。店内でフードを取らないわけにもいかないでしょう。  あなたも、変な目で見られてしまいます。 “大丈夫”、って、どうしてですか。  ……あなたの知り合いだから? しかし、いくら知り合いだからって、ダメな人も……  ……あの! 先に入らないでください! 置いていかないで!  どうしたら……。  ……仕方ない。ついていくしかないですか……  はぁ、はぁ、はぁ……。  ……な、なんなのですか、あの店主は……  私のことを見た途端に、目を輝かせて、次から次へと服を持ってきて……  一体、何着、着せられたのでしょう……こんなこと、初めてです……。  確かに、私がダークエルフだと分かっても、変な顔はされませんでしたが……ずいぶんと、変な知り合いがいるのですね。  ……違う、のですか? あの店主、いつもあんな感じなのでは? ……普段はもっと落ち着いてる?  では、どうして?  ……“素材がいいから”……?  ……っ。  なにを、言っている、のですか。  ……それは私が、ダークエルフであるという、だけでしょう。頭に“ダーク”とついても、エルフですので……醜い容姿の者は、そうそう生まれません。  ですから……別に、私がどうこう、というわけでは。  ……。  ……あなたは、どうなのですか?  今の、私の服は……変では、ないですか。  ……ん。  そう……です、か。  それなら……別に。まあ。  いいの、ですけれど。  でも、と私は考えます。  彼はどうして急に、私に服を買い与えたのでしょう。  ……いえ、本当はもう、理解していました。  彼は、私を奴隷として売り飛ばすつもりはないようです。  なのに、私を匿って、しかも着飾らせる、ということは……。  ……それは、つまり。  彼自身が、私を奴隷として使うためでしょう。