『一緒に買い物? 私に服なんて必要ありません!』
またしばらく経って、足の怪我が完全に治って……その翌日。
あの人間は、朝から部屋を訪ねてきて、私を外に連れ出しました。
あの。大丈夫なのですか。私と一緒に、街を歩いて。
……確かに、私はローブのフードを被っていますから、エルフだということは、一目では分からないとは思いますが……。
でも、万が一ということも、あるでしょう。
……別に、あなたを心配しているわけではなくて。
あなたの家に、“ダークエルフが住んでいる”などと噂されたら、住みづらくなるでしょう。お互いに。
大体、どこに行くのですか。
ただの買い物なら、私を連れ出さなくてもいいのでは。
……やはり、私のことを……売り飛ばすつもりですか。
あ……到着したのですか。ここが目的地?
ここは……服屋ではないですか。
あなたの服を探しに? 違うのですか。
……私の? なぜ、ですか?
私は、別に、最低限の衣服は身に着けています。今着ているこの服だって……まだ着られます。
……嫌、というわけではありません。混乱しているだけです。
大体、服なんて買ったら、店員に私がダークエルフだと分かってしまうではありませんか。店内でフードを取らないわけにもいかないでしょう。
あなたも、変な目で見られてしまいます。
“大丈夫”、って、どうしてですか。
……あなたの知り合いだから? しかし、いくら知り合いだからって、ダメな人も……
……あの! 先に入らないでください! 置いていかないで!
どうしたら……。
……仕方ない。ついていくしかないですか……
はぁ、はぁ、はぁ……。
……な、なんなのですか、あの店主は……
私のことを見た途端に、目を輝かせて、次から次へと服を持ってきて……
一体、何着、着せられたのでしょう……こんなこと、初めてです……。
確かに、私がダークエルフだと分かっても、変な顔はされませんでしたが……ずいぶんと、変な知り合いがいるのですね。
……違う、のですか? あの店主、いつもあんな感じなのでは? ……普段はもっと落ち着いてる?
では、どうして?
……“素材がいいから”……?
……っ。
なにを、言っている、のですか。
……それは私が、ダークエルフであるという、だけでしょう。頭に“ダーク”とついても、エルフですので……醜い容姿の者は、そうそう生まれません。
ですから……別に、私がどうこう、というわけでは。
……。
……あなたは、どうなのですか?
今の、私の服は……変では、ないですか。
……ん。
そう……です、か。
それなら……別に。まあ。
いいの、ですけれど。
でも、と私は考えます。
彼はどうして急に、私に服を買い与えたのでしょう。
……いえ、本当はもう、理解していました。
彼は、私を奴隷として売り飛ばすつもりはないようです。
なのに、私を匿って、しかも着飾らせる、ということは……。
……それは、つまり。
彼自身が、私を奴隷として使うためでしょう。