Track 8

エピローグ『私は幸せです』

 それから一夜明けて、翌日のこと。  少し、体は痛かったですけれど。体調は何も問題なく、何だか不自然なくらいに、気分もよくて。  いつもと同じように、本屋の店番を始めました。  いらっしゃい……  ……ああ。この前の商人の方ですか。  またお仕事の話ですか。ご主人は奥にいます。勝手にあがって、さっさと帰ってください。  ……なんですか。私の顔を、じっと見て。  ……嬉しそう? 私が?  おかしなことを言わないでください。  まったく……。  ……ああ、そうそう。この前の、質問ですが。  あなたは、私とご主人の関係が何かと聞きました。  お答えします。  ――私とご主人は、大切な人同士です。  ……私はダークエルフで、ご主人は人間です。  だけど……お互い大切に想うことに、理由なんて要らないでしょう?  それだけです。  ……。何を笑っているのですか。不愉快な。  さあ、さっさと用事を済ませて帰ってください。私も、忙しいのです。  ……他にお客はいませんけれど。  そんな風にして――  街をさまよっていたダークエルフが、何故か今は、本屋の店番をしています。  一体、どうしてこうなってしまったのでしょう。  けれども。家があって。仕事があって。……ご主人がいて。  今、とても幸せです。  私はもう、しっかりと分かっています。  幸せであることに――理由なんて、要らないのです!